第七百九十六夜

 

 私の通う小学校は創立百周年を超える古いもので、いわゆる学校の七不思議がたくさんある。七つどころか両手両足の指でも足りなくて、もうどれが元々の七不思議なのかわからない。七不思議なのに「たくさんある」だなんておかしい?でも、そのお陰で「七つ目を知ったら呪われる」なんて話もない。だから、安心して私の話を読んでほしい。
 いつの間にか太陽が頭上高くに上って、先生がプールサイドで笛を吹いた。プール開放の午前の部の終わりの合図だ。先生は水道の傍らに立ち、右手のホースでプールサイドに水を撒き、
「滑って転ばないように、ゆっくり歩いて更衣室へ戻るように」
と左手の拡声器で注意を呼び掛ける。
 渋々プールから上がった皆は先生の撒いた水の上を選んで歩く。足の裏で感じるそれは撒かれて間もないというのに、きっと肩まで浸かったら気持ちの良いだろうくらいのお湯と化している。これなしで歩けばきっと足の裏を火傷してしまうだろう。巫山戯て乾いた面へ押し出そうと友達を小突くやんちゃ坊主の足元へ先生がホースで水を撒き、本当に危ないから止めなさいと少し怖いくらいの声で叱る。
 ワイワイと更衣室へ戻ると、締め切られて籠もった熱気が、プールですっかり冷えた身体に染み込んでくる。身体を拭いて着替える間くらいはそれも心地好かったが、荷物をまとめる頃には段々と蒸し暑さが勝ってくる。隣で長い髪にタオルを撒いている友人に、帰りに駄菓子屋でアイスでも買って食べようか、でも直ぐにお昼ご飯だから、それなら二人で一つを分け合おうかなどと相談し、荷物をまとめてプールを出る。
 校門を出、学校脇の川沿いの遊歩道を歩く。校庭の木々の影になるので、街道よりもずっと涼しい。セミの声の降り注ぐ中を歩いていると、金網越しに先生達の駐車場の隅に教頭先生がしゃがみ込んでいるのが見えた。
 何をしているのかと歩道から声を掛けると教頭先生はきょろきょろとあちこちを見回し、ようやくこちらを見付けて、
「お墓参りだよ」
と、手にした数珠をこちらに差し出して見せる。
 何のお墓かと尋ねると、理科の解剖実験で使うカエルだよと教えてくれる。
「どうしてこんな隅っこに?」
と友人が尋ねると、駐車場の一辺の真ん中辺りを指差して、
「あそこに、池の神様のお社があるだろう。あの神様は蛇神だから、お社の近くじゃカエル達が怖がるだろう」
と、首に掛けた手拭いで額の汗を拭き、穏やかに微笑んだ。
 そんな夢を見た。

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