第七百六十五夜

 

 連休の谷間のある日、講義の時刻に間の空いた者がサークルの部室に数名集まった。各々、スマート・フォンでゲームをしたり、課題を片付けようとコピーしたテキストにマーカとペンとで何やら書き込んだり、何故か部室においてあるチェスに興じたりしながら互いに言葉を交わす。

 先の連休の話や乱高下する気温の話から、明日からの二度目の連休は気温こそ上がるものの天気が良いと言う話になり、それなら何処かで都合をつけて、日帰りできる範囲で遊びにでも行かないかという話になった。

 円安の影響もあって観光客の来るようなところはきっと混み合って疲れるばかりだろうから、なるべくならば観光客の小なさそうなところが好い。外国人がどんなところに来るかといえば、やはり日本ならではのものを目当てにやってくるのだろう。であれば、わざわざ日本に来てまで見に行くものでもなかろうものが理想だろう。
「猫カフェとかどう?」
と誰かが提案する。なるほど確かに猫くらいならどんな国にだっているだろうと皆が賛成しかけたところ、チェスを指していた一人が手に持ったビショップを左右に振りながら、
「ごめん、猫アレルギー」
と申し訳無さそうに呟く。

 ならば似たようなものということで爬虫類カフェはと提案するものがあったが、これは苦手なもののほうが多く即座に却下される。
「フクロウ・カフェとか昔行ったことあるけど、いまでもまだあるのかな。目がまん丸で、結構かわいいんだよ。餌はエグいらしいけど」
という提案には、
「あー、私、フクロウ駄目なんだよね。恐怖症というか」
と、机から目を上げた子が蛍光ペンを片手に肩を抱えて震えて見せる。

 実際見てみたら可愛いかもしれないと説得を試みる言い出しっぺに対して彼女は天井と壁の境界あたりを見上げ、
「子供の頃に行った旅館にね、ガラスケースに入れられた日本人形が飾ってあってね。気味が悪くてお父さんに頼んで、視線がこっちに向かないように回転させてもらったんだ」
と遠い目をする。

 それで安心して寝られるかと思いきや、いざ豆電球の下で寝てみると、人形の方から視線のような気配を感じる。恐ろしいけれど、その正体を知らぬままでいる方が恐ろしい。確かめたくはないけれど、確かめないままでは眠れる気がしない。怖いもの見たさと早々に眠りたい気持ちとが半々で、結局ゆっくりと人形の方を振り返った。何とも無い。父の回転させてくれた通り、人形は長い黒髪に覆われた背中と後頭部とをこちらへ向け、じっと向こうを見て立っている。ほっと胸を撫で下ろしたとき、
「くるって首だけ回って、こっちを振り向いて、目が合っちゃったんだよ、人形と」。
 それ以来、彼女は首がぐるりと廻る動物や、映画の演出がどうにも苦手に鳴ってしまったのだと自嘲した。
 そんな夢を見た。

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