第七百六十一夜

 

 昼食から帰ってくると同僚から、
「あのカメラ、駄目だったみたいです」
と、写真屋のロゴの入った薄い封筒を渡された。何のことかとキヲクを辿りながら封筒を開けると、ネガの収められたビニル・シートだけが入っている。ネガを見れば、ほとんど一面真っ黒で、つまり写真に焼いていれば画面は真っ白ということだ。
「えっと、何だっけ?」
と尋ねて返ってきた、
「寮の掃除をしたときの」
と言う言葉で思い出す。

 二月の終わり頃、空気の乾いた日が続いた頃に社員寮――といってもアパートの一棟を会社で借り上げていただけのものだが――の隣のアパートで火事があった。火は運悪く寮にも燃え移り、古い木造だけあって見事に全焼してしまった。幸い人身に大きな被害はなかったが家財はほとんど失われてしまったし、何より新たに住む場所を確保しなくてはならない。

 そこでかつての社員寮に白羽の矢が立った。三十年ほど前まで寮として使っていたのだが、送迎バスのコストを削減すればより工場への交通の便の良いところに寮を借りられるということになり、以来その建物は倉庫として使われていた。中の荷物はトランクルームを借りてそちらに移し、再び寮として使えるようにと急ピッチで片付けをしているさなか、とある一室の押入れの中にいわゆる使い捨てカメラ――正式にはレンズ付きフィルムというらしい――が転がっていたのだ。

 片付けを終えて最低限の家具や家電を揃えた後、当時の従業員や今もいる社員の若い頃でも写っていないかと、ちょっとした悪戯心で現像に出したのだった。
「まあ、下手すりゃ四十年近く前の代物だもの。真っ白ってことは、光が入っちゃったんだろうな」
と言うと、彼女は、
「何か写っちゃいけないものが写っていて、写真屋さんが隠したり、『見ないほうがいいですよ』っていうシチュエーション、憧れてたんだけどなぁ」
と、妙なところを残念がるのだった。

 そんな夢を見た。

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