第七百二十八夜
息子の通う保育園が冬休みの直前に、クリスマス会をやるというので妻と三人で手をつなぎながら家を出た。古くからあるキリスト教系の幼稚園で、昔からクリスマス前の土曜には賛美歌を歌い、キリスト誕生にちなんだお遊戯会をするそうだ。
別段、何か大層な役をもらったとも聞かないので気合の入れ過ぎも恥ずかしかろうと言ったのだが妻がどうしても折れず、初夏の運動会依頼のハンディ・カムの出番となった。まあ、荷物としては親父の頃に比べたら随分と小さくなって楽なものではあるのだが、どうも親馬鹿と思われるのでと気が重い。
いざ園に到着すると、息子は二人の手を離し、正門のすぐ脇の犬小屋へ駆けて行って二頭の挨拶をする。犬小屋と言っても小学校の兎や鶏の飼育小屋よりずっと広い金網張りの小屋で、中には藁の敷かれた一角もある。園長が犬好きで、必ず二頭になるように地元の保健所から雑種を引き取ってくるのだそうだ。今はシェパードのような顔付きと毛色をした柴犬のような体型のと、ハイエナのようなまだら模様のいかにも日本の雑種らしいのとが、息子の金網から差し込む手指を楽しそうに舐めている。
先生にそろそろ中へと優しく注意された息子の背を押して促そうとすると、不意に二頭の犬達が低い声で呻り、かと思うとすぐさま大きな声で吠え始める。自分は犬を飼ったことがないが、それでも分かる。重み知りを見つけて喜ぶような吠え方ではなく、警戒すべき何者かを見つけたときの威嚇だ。
犬の視線の先を見ると、我々と同じ子供連れの若い夫婦で、犬に歓迎されていない様子なのを悟ってバツが悪そうにしている。
と、そこへ園長がやってきて、
「ちょっと失礼」
と言いながら小さな香水瓶のようなものを取り出し中の液体を旦那さんの額に親指で塗り付けるとm胸に手を当てて目を閉じながらぶつぶつと何事かを唱える。と、いつの間にか犬達が吠えるのをやめており、園長はもう大丈夫と二人を園に招き入れる。
何だったのだろうと妻に言うのが通りすがりに聞こえたか、
「たまにあるんですよ、何か良くないものでも憑いているんですかね」
と園長はニコニコしながら教えてくれた。
そんな夢を見た。
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