第七百六夜

 

趣味のボウリングにふらりと出掛け、幸いというべきか予想通りというべきか顔見知りの一団を見付けた。彼らのゲームが一区切り付くのを、ホット・スナックを肴に軽く飲みながら待っていると、これまた顔見知りの店員から声を掛けられる。手が空いているのなら最近引っ越してきたばかりの客と一ゲームどうかと言って、隣ではにかむ恰幅の良い中年男性を紹介する。

快く引き受けて荷物を隣のレーンに移し、互いに簡単な自己紹介してゲームを始める。当たり障りのない範囲を探りながら世間話をする中で、
「秋に引っ越しって、ちょっと珍しいですよね」
と水を向けると、
「飽きっぽい性格といいますか、引っ越しも半分趣味といいますか」
と苦笑する。それでは金も掛かるだろうと言うと、
「長めの休暇が取れたら旅に出る癖もあって荷物も少ないので、そこはそうでもないんです」
と、スマート・フォンを取り出してあちらこちらを巡って撮った写真を見せてくれる。疫病騒ぎのここ数年は割りと大人しくしていたし、スマホも買い替えてしまったから少ないというが、それでもこの半年で二回も海外へ行っているという。

そんな話をしていると、先にゲームの終わった隣のレーンの顔見知りがこちらの様子を見にやってきて挨拶を交わす。若い夫婦が自己紹介をしたところへ、
「綺麗な奥様で羨ましい」
と彼が世辞を言うと、
「いえ、お化粧で化けているので」
と謙遜する奥さんへ、
「そうそう、化粧を落とすとのっぺらぼうなんですよ」
と旦那が目を閉じて唇を隠しておどけて見せる。
顔見知り連中が失笑する中、
「のっぺらぼうなら、僕も見たことあるんですよ」
と彼が言い出す。なんでも疫病騒ぎの少し前、東欧諸国をぶらぶらと旅していたときのこと、
安宿の窓辺で数百年の歴史を持つだろう石畳の街道を肴に酒を飲んでいると、
「ぶよぶよの、ほんのりピンク色の人みたいな塊がふらふらと道を歩いていたんです。治安のあまり良くない地域だったから、太った薬物中毒者でもうろついているのだろうと思ったのですが……」。
インターネットで調べてみるとあの徳川家康の駿府城に現れたという肉人とかぬっぺほふとかいう妖怪にそっくりだったという。

日本の妖怪が東欧にもいるのか誰かが言うと、
「お前、こっそり行ったんじゃないか?」
と先程の旦那が茶化し、奥さんは彼を睨んで頬をふくらませた。

そんな夢を見た。

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