第六百七十夜

 

南方の台風が梅雨前線を刺激した嵐の中、各種警報にもめげず定刻まできっちり営業した我が店の閉店作業を終えてネット調べると、予想通りにバスの運行は休止していた。「こういう非常時に利用できてこそ、ホーム・センタの意味があるのだ」というのが社長の持論だそうで、確かにこの嵐にも関わらず、いや嵐だからこそか、日が暮れてなお結構な数のお客が緊急に必要となったのだろう資材や工具の類を求めてやって来てはいた。

さてどうして帰ったものかと案じていると、足のない者は店長や自家用車で来ている社員が送るから安心しろと言い、テキパキと居住地区ごとの人数・車の定員を勘定して組分けを行うと皆合羽姿で豪雨の駐車場へ出た。

店長が大きなワゴン車を軒下まで回してドアを開けると四人が続々と乗り込んで戸を閉める。シートベルトを締めるよう皆に促してそれを確認すると、
「デロリアンへようこそ」
と言って車を出す。

何を言っているのか解らず、愛車に妙な名前をつけているものだと解釈して済まそうと思っていると、同乗させてもらった四人の内手最も若い高校生の女の子が、
「デロリアンって何ですか?」
と声を上げる。解らないものを素直に尋ねられる性格が羨ましい。

店長曰く、アメリカの自動車会社の名前で、その社の車をタイム・マシンに改造したものが出てくる大ヒット映画があったのだという。しかし、この車は国産のワゴン車だ。
「え、これ外車なんですか?」
と尋ねる女の子に、
「いや国産だけどね。そっちじゃなくて……」
と店長はルーム・ミラーで時折反応を見ながら、
「店から僕の家まで、大体三十分くらいなんだけどね、一時間位のアルバムを流しながら走ると往復でちょうどいいんだ。ただ、時々不思議なことがあって、店を出るときに流し始めた曲が終わらないうちに家に着いちゃうことがあるんだよね。長くても精々六分の曲が」
と説明する。なるほど、それでタイム・マシンというわけか。
「だから、皆もひょっとしたらあっという間に家に帰れるかも」
と笑う店長に、
「それよりも、絶対に安全運転でお願いしますよ」
と、最年長のおばちゃんから厳しい言葉が飛んだ。

そんな夢を見た。