第六百五十四夜

 

目を閉じて気分良く列車に揺られていてふと目を覚ますと、ちょうど会社の最寄り駅の一つ手前の駅に着いて扉の開くところだった。次の駅までもう数分の猶予しかないと、重い瞼をどうにか閉じずに過ごさねばと背筋を正し、胸ポケットから手帳を取り出して帰社後のスケジュールを確認する。
――それにしても、おしゃべりな子だ。
隣の席からは若い女性のお喋りが絶え間なく聞こえている。思えば先刻うっかり寝過ごしそうになった頃からずっとだ。特に聞き耳を立てているわけでないから何の話かはわからぬが、まあ楽しそうで何よりだ。

少々乗客の乗り降りがあり、それが止むとすぐに扉が閉まって発車する。走行音に邪魔されつつ、それでもまだ相変わらず隣から声が聞こえる。

ふと顔を上げると、向かいの座席の向こう側の大きな窓に、車内の様子が映っている。地下鉄だから外が暗く、夜の列車のように明るい車内が反射するのだ。私の右隣にブレザ姿の女生徒が座り、ほとんど真横を向くようにして更に隣の同じブレザ姿に向かって話しかけている。

まあ、あまりしげしげと見るものでもない。そろそろ電車が駅に着くかと手帳を仕舞い、荷物をまとめて立ち上がる。降り口側の扉へ向き直ろうと身体を回し腰を抜かすほど驚いた。

私の隣は全くの空席で、一つ開けた席に先程窓の反射で見たものらしきブレザ姿があるのみで、彼女はひとり黙々と英単語帳を見詰めていて、喧しい少女たちのお喋りなど、まるで聞こえてこないのだった。

そんな夢を見た。