第六百五十三夜

 

深夜十二時を少し回り、もうじき最終間際の電車の客で店が忙しくなるかという頃、入り口の自動扉が開いて入店を知らせるメロディが鳴った。マニュアル通りの挨拶をして振り返ると、制服姿の警官とスーツ姿の男二人が入ってきて、商品棚に目もくれずレジの前に立ち、懐から警察手帳を取り出して、尋ねたいことがあると言う。

スーツ姿の二人のうち、若い方が透明なビニル袋を取り出して、
「この店のものに間違いありませんか?」
と示したのはうちの系列のコンビニエンス・ストアのレシートで、上部に印字された店舗名は確かにうちのものだった。

肯定すると、この買い物をした人間について尋ねたいと言うのでレシートの日付けをみれば今日の……いや、つい十数分前まで今日だった昨日の午後十時頃が記録されている。こちらはつい先程着替えて交代したばかりだが、幸いその時の店番の二人のうち、一人はまだ事務所に居るはずだ。

着替えが終わっていたらちょっと出てきてくれと声を掛けると、ちょうど食事が終わったところとの返事と共にバイトの女の子が現れ、私と刑事とを見て不思議そうな顔をする。

刑事はレシートを彼女に示し、再び、
「この買物をした客について、どんな客だったかを教えてほしい」
と促すと、彼女は暫く唸った後、
「ああ、ちょっと派手な格好をしたオジサンでした、雨の夜なのにサングラスをしてて……」
と背格好などを説明すると、年配の方が丁寧に相槌を打ち、その横で若い方がメモに書く。

彼女が一通り語り終えると、
「その男性は、一人で来店を?」
と年配の方が尋ね、彼女が頷くと、
「徒歩で来たか、車だったか、わかりますか?」
と質問を重ねる。
「ああ、直前にヘッド・ライトであそこ、あの雑誌コーナが照らされてたんで、車かもしれません」
「車には、誰か乗っていませんでしたか?」
「いや、昼なら兎も角、夜は店の中が明るくて外は殆ど見えないので……」
と申し訳無さそうに言う彼女の横から、
「駐車場を映している監視カメラがありますが、ご覧になりますか?」
と横槍を入れると、刑事は是非と頷く。

念の為に本社に連絡し、警察への協力ならば問題ないことを確認してから警官達を事務所へ入れ、レシートに印字された時刻の数分前から駐車場のカメラ映像を確認すると、入ってきたワンボックスの運転席から茶髪の男が降り、数分後にその男がレジ袋を提げて戻って来て、また運転席へ乗り込む姿が映っている。

若い方の警官が、助手席には誰も映っていないし、誰かがこの駐車場で合流したわけでもないことはわかりましたねと言うが、年配の方はああと生返事を返すばかりだ。
「あの、このお客様が何か?」
と尋ねると、
「今から一時間半ほど前ですかね、この映像の二十分後くらいに、大通りの脇で事故があったんです」
と言う。レシートに数本の缶チューハイがあったことを思い出したが、うちは飲食店ではないから車での来店客に酒を売っても問題はないはずだ。それを確認すると、もちろんと年配の方が頷き、若い方が、
「そうじゃなくて、この男性――救急が駆け付けたときには既に亡くなってて、即死だろうって話なんですけど――発見時に助手席に座っていたんですよ」
と興奮気味に捲し立てる。
「じゃあ、別の方が運転を?」
と尋ねると、
「それが、運転席側の扉はひしゃげちゃって、内側から開けて逃げられるような状態じゃなかったんですが、救急の駆け付けたときには、運転席には誰も座っていなかったそうなんです」。

年配の刑事が喋り過ぎだと叱ると彼は平謝りし、また話を聞かせてもらうこともあるかもしれないからよろしくと、我々の連絡先をメモして店を出ていった。

そんな夢を見た。