第六百二十三夜

 

友人に夜釣りへ誘われて釣り道具一式を揃え自宅に待機していると、彼からもうすぐ着くとメッセージが来た。彼との釣りはいつも、運転を趣味の一つにしている彼が車で迎えに来てくれるのだ。

防寒具を着込んで表に荷物を運び出していると、そこへ一台の見慣れぬ車がやってきてすっと停まる。ご近所さんの誰かを送ってか迎えにか来たものかと思って道を譲るべく荷物を脇へ退かそうとすると、運転席から件の友人が降りてきて、荷運びを手伝おうと申し出てくれる。

手早く荷を載せて助手席に座ると、彼の運転で車を出す。早速、
「車、いつ買い替えたんだ?この前、買い替えたばっかりだって言ってなかったか?」
と尋ねる。二ヶ月ほど前に乗せてもらったときには格安で買ったという年式の古い中古車だったのが、今日は随分と新しいものになっている。
「それがさぁ、これ、タダというか、前の車と交換してくれたのよ、中古車のディーラが」
と笑う。まさかそんな事があるのだろうか。
「ひょっとして、リコールが出ているのを隠して君に売ったとか?」
と尋ねると、
「まあ、似たようなものかもしれないね」
と一瞬横目でこちらを見てにやりと笑い、
「コレなんだけど」
とルーム・ミラーを指す。ルーム・ミラーといっても昔ながらの鏡のものではない。リア・ウインドウに設置されたカメラの映像を写す液晶ディスプレイのものだ。

どういうことかと尋ねると、
「雨の日に限ってなんだけどさ、あの車、出るのよ」
と、低い声をわざとらしく震わせる。曰く、雨の日にはきまって車内が生臭くなる。釣りが趣味だけに何か匂いの発生源になるようなものが視覚に落ちて気付かないでいるのかと掃除をしてみてもそれらしきものは見当たらず、臭いも改善しない。後部のトランクまで確認してもそれらしきものは見当たらず、途方に暮れてトランクを閉じたとき、
「ウインドウ越しにルーム・ミラーが目に入ってさ。ルーム・ミラーって、運転席から反射で真後ろが見易いように調整するだろ?だから、車の真後ろに立つと運転席が映るわけだ。そこにな、腐りかけたような男の死に顔が……」
映って見えたのだと言う。

彼がそれを売った店に話しを聞くと、先方もそういう事故のあった車であることを承知の上で彼にはそれを黙って売ったのだった。
「住宅と違って中古車には心理的瑕疵の説明責任は無いらしいんだけど、変な口コミをされたくないからなんだろうね。タダでこいつと交換してくれたんだ」
と、彼は上機嫌でハンドルの上で指を踊らせた。

そんな夢を見た。