第六百四夜

 

趣味の野球観戦で外野席から写真や動画を撮りたいと思い立ち、写真を趣味にしている後輩を仕事上がりに焼き鳥屋へ誘った。一通りの相談を終えて、彼が勧めてくれたカメラをタブレットで検索する。

出てきた中古カメラ屋の通販サイトから何気なくトップのものを表示させ
「あ、もしさっきの型番のを買うのならそのサイトのは止めておいたほうがいいかもしれませんよ」
と、梅肉を付けた胡瓜を噛み切って後輩が言う。悪徳業者か何かなのかと尋ねると、会社自体の評判はむしろ良い方なのだという。ではどういうことかと重ねて問うと、
「ネット上の妙な噂があるんですよ」
と、串から外して取皿に並べたレバーに七味を振って怪談話を始める。

写真を趣味にしていたある人物がある日ビルから転落死した。警察はこれを自殺とし、転落時に手にしていたカメラを遺族に返却する。そこに収められていたメモリ・カードを確認すると、迫りくる地面を連射で捉えた写真が収められている。それが死の直前に見た光景というわけだ。写真をもう少し遡ってみると、今度はビルを見上げる構図でビルの縁に立つ人影を写したものが見つかる。遠く逆光ではっきりしないこの人影が、転落死と何か関係があるのだろうか。

私はあまり詳しくないのだが、メモリ・カードをフィルムに置き換えれば、昔からよくある怪談だそうだ。それがどうかしたのかと尋ねると、
「この話が、あるオカルト系の掲示板に書き込まれたらしいんですが、そのオチに『このカメラとメモリ・カードは遺品とはいえ気味が悪く、中古屋に売ってしまいました。興味のある方は……』」
と、先程の通販サイトの屋号が書き込まれていたという。
「店への嫌がらせの作り話じゃないの?」
「それだったらカメラ系の掲示板か、価格比較系の大手サイトの商品クチコミにでも書く方が影響があると思うんですよね。あと、型番だって指定しない方が、より多くの商品に影響するでしょう?まあ、人間、常に合理的に動くとは限らないんですけれど」
と頭を掻き、
「別にそんな話を信じているわけじゃないんですが、君子危うきに近寄らずとも言いますし……」
と歯切れ悪く後の言葉を濁し、レバー最後の一欠片をレモンサワーで流し込んだ。

そんな夢を見た。