第五百八十二夜

 

子供達が夏休みに入って最初の金曜深夜、妻の実家へ高速道路を走っていた。夜の高速道路はその退屈な眺めと程よい走行音の子守唄とで、どうしても眠気が襲ってくる。

幾度目かの生欠伸を噛み締めて涙を拭ったところでいつの間にか目を覚ましていた娘から便所のリクエストが飛んできて、これ幸いと次のサービス・エリアでの休憩を約束する。

そのまま走ること十分弱、表示に従ってサービス・エリアへ入ると娘は車を飛び降りるようにして便所へ掛けて行く。寝ている息子を見ているからと妻に先を譲られ、特に尿意もなかったが念の為に車を降りて娘の後を追う。夏とはいえども深夜となると山中の空気はそれなりに清々しい。脚を動かして新鮮な空気と血液が巡ってか、頭の中もスッキリしてきた。

清潔で小洒落た便所で用を足して車に戻り、妻に交代を申し出る。息子に一向に起きる気配がないのを確認して、そのまま車外で軽くストレッチをする。運転中は何でもないように感じつつも、やはりあちらこちらが凝っているものだ。

気分良くアキレス腱を伸ばしていると、娘が便所に向かったときと同様駆け足で戻って来る。その顔は決して明るくはない駐車場でもそれとわかるほど青褪めていて、どうかしたのかと問うと、
「トイレで変な音と声がした」
という。
少し遅れて戻ってきた妻と三人で車に乗り込んで話を聞くと、個室に入って暫くした頃、すぐ隣の個室から、
――しゃり、しゃり、しゃり……
と何か硬いものを擦り合わせるような音が聞こえたという。女子便所も綺麗で広々としていて、利用者のいない個室は一見してわかるように扉が内に開くようになっているのだそうだ。娘の入ったときにはその扉のほとんどが開いていて、少なくとも彼女の入った個室の両隣は無人だったと訴える。

消音装置のスピーカの調子でも悪かったのではないかと言うと妻が、
「それは小豆研ぎとか小豆洗いっていう妖怪でね、川原やなんかで小豆とごうか、人とって食おうかと歌いながら、笊で小豆を洗うんだって」
と、何故か自慢気に笑うのだった。

そんな夢を見た。

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