第五百八十夜

 

数日降り続いた雨から一転して猛暑日となった日の深夜、あまりの蒸し暑さに体が火照って目が覚めた。節電のため適当な時間で冷房が切れるようにタイマを設定していたのが仇となったか。

布団には湿気とともに熱が籠もり、寝間着代わりのシャツは絞れそうなほどに汗を吸っている。頭の芯に、眼精疲労に似た鈍い痛みがあって、呼気が酷く熱い。熱中症になりかけているようだ。

一念発起して体を起こし、改めて冷房を点け直す。扇風機の風を布団に当たるよう首を固定してシャツを脱ぎ汗を拭って着替えると、多少は楽になっただろうか。

水分を補給するべく台所へ行き、グラスを手に冷蔵庫の前に立つとその戸を中指の背でコンコンと二度ノックした。
暫く返事を待ってから、そんな物が返ってくる筈がないことに気が付く。きっと熱に浮かされているのだろう。

あまりの馬鹿馬鹿しさに我がことながら苦笑しつつ、目の前の扉に手を伸ばす。
――コンコン。
まるで戸の内側からノックを返すように、目の前の冷蔵庫から固く籠もった音がした。

そんな夢を見た。

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