第五百六十四夜

 

トレイに載せたカップ二つを窓際の少女達へ運ぶと、
「ね、新しい御札!作ってきた!」
と聞こえてきた。

私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の客も少なくない。雇われ店長曰く、ビルのオーナが趣味と税金対策で経営しているそうで、商品は安く時給は高い。

縦に四等分された苺に生クリームを絡めてスプーンで掬いながら、
「え?あぁ、そうか、あの御札の新しいの?」
とベリーショートの少女が眉根を寄せ手からスプーンを置き、制服の胸ポケットをまさぐる。
「そう、私特製の有り難ーい御札」。

ポニーテイルの少女は樅の木の形の抹茶風味チョコレートを紅茶皿に退避させながら、透明なビニルシートの向こうに坐るベリーショートの少女へ鼻息荒く宣言する。
「いやもう、こないだ貰ったので十分効いてるから。風邪もインフルエンザも引いてないし」
「いやいや、遠慮しないで大丈夫だから。そして油断も禁物だから」。

二人共この店の常連で、制服からして店の近くの女子校に通う高校生らしい。週に一度、金曜日の夕方にやってきては、部活で使い果たしたエネルギーを甘味で補給してゆく。たまに見かけない週は定期試験の期間なのだと店長が教えてくれた。店長がそういう趣味なのではない。彼女らはある意味でこの店の名物客で、店長からもバイト仲間からも一目置かれ、休憩中や閉店後の片付けのときなど、しばしば話題になるのである。

胸ポケットから取り出した手帳型のスマート・フォンのケースから、ベリーショートの少女が小さな板状の白い物を取り出す。厚い和紙を畳んだものらしい。それを開いて中身を取り出し、
「何だっけ、アマビエ様?いや、絵はまあ可愛いんだけどさ。新しくする理由はなにさ」
と問う。ポニーテイルの少女はブランデーグラス下方のいちごジャムと白玉とをスプーンで掘り出しながら、
「だってウイルスの方はほら、変異株だっけ?アップ・デートしてるわけじゃない?私も流石にそこまで予想してなくって、その分の念は込めてなかったから」
と説明して白玉を口に運ぶ。ベリーショートの少女が、
「ああ、これって念のお陰で効くものなんだ」
と言うと、
「念というか、アマビエ様にしたお願いの中に、変異株が入ってなかったから」
とポニーテイルの少女が訂正する。
ああ、なるほどねと投げやり気味に納得の言葉を口にしたベリーショートの少女はしかし、それなりに思うところもあるようで、
「まあワクチンもねぇ……」
と、クリスマス仕様のいちごパフェをつつきながら、
「お父さんの職域接種で家族丸ごと接種してても掛かった先輩もいるし、二回打ちましょうって話だったのが、何処かの外国だと三回、四回打ちましょうって話になってるみたいだし、よくわからないっちゃわからないよね」
と零す。白玉をつついていたポニーテイルの少女もそれを聞き、先輩家族が副反応に苦しんだという話を滔々と語る。
「まあでも、打たなかったら打たなかったでどうなってたかわからない訳だしね」
と難しい顔をするベリーショートの少女に、ポニーテイルの少女は珈琲を一口飲み、
「そういうわけで、持ってなかったらどうなるかわからない訳だよね」
と、自作のアメビエ様のお守りをベリーショートの少女に押し付けるのだった。

そんな夢を見た。

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