第五百六十三夜

 

駅に着いてプラット・フォームへ出ると、そこに待つ人々は既に疎らだった。疫病騒ぎの中にわざわざ満員電車に乗ることもあるまいと、出社の時間を遅らせて晩く帰ることにしているからだ。

中でも途中駅で改札に近い階段が無い最後尾の車両付近には電車を待つ人影はおらず、やがて入ってきた電車にも各座席の端を埋める程度にしか乗客がいない。

が、夕方に雨の降った影響か、どうも車内の湿度が妙に高くて蒸し暑い。次の駅へ半ばほどまで待ってみても、歩いているうちに書いた汗が引かずに服が肌に張り付いて不快感が続く。まさか今日に限って弱冷房車だったろうかと首を捻りつつ連絡通路を通って隣の車両に入ってみると、こちらは風も吹いて随分と涼しい。見れば疫病対策で車窓が随分と大きく開けられており、そこを夜気が吹き抜けているらしい。

漸く安心して車両の隅の空席に腰を下ろし、目の疲れを癒やすべくハンカチと目薬とを鞄から取り出して注して目を瞑る。

そうしているうちにいつの間にか眠っていたらしい。列車の減速した気配を感じて目を覚まし、うっかり寝過ごしてはいないかと辺りを見回すと正に最寄り駅に着いたところだ。慌てて席を立って扉を潜り、いつものホームの端へ降り立つ。

ホーム中央付近にある改札階への階段へ向かって歩きながらふと違和感を覚えて振り返ると、たった今降りた車両が徐々に速度を上げて遠ざかって行く。
いつもの最後尾の車両から一両前へ移動した私が乗っていた私が降りたそれは、何故か最後尾の車両だった。

そんな夢を見た。