第五百五十一夜

 

まだ通い慣れぬ道を自転車で走っていて赤信号に捕まった。まだ硬い制服のポケットからスマート・フォンを取り出して時刻を確認するが、始業にはまだ余裕がある。わざわざ自転車を引いて歩道橋を渡るほどのことはない。

暫く待つと信号が変わり、右足でペダルを踏み込む。と、それが思いの外に重くスピードが出ず、少々よろけつつ左足を踏み込んで体勢を立て直す。

交差点の歩道脇、自転車専用レーンは上り坂でもないのにどういうことか。違和感に首を捻りつつ自転車を漕いでいると、タイヤから手足に伝わる感覚も普段と違う気がしてくる。どこかで味わったことがある気がするのだが思い出せない。

そのままペダルを漕ぎ、商店街の服屋を通り掛かってショウ・ウィンドウに写る自分の姿が横目に入り、驚いて急ブレーキを掛けて自転車を停める。

後輪の上の荷台に、誰かが腰を掛けているように見えたのだ。そう考えると先のペダルの重さも、ちょうど二人乗りをしたときのそれによく似ていたように思われる。

少しだけ後退りしてもう一度、窓に姿を写してみる。勿論荷台には誰も、何も乗っていない。安堵して再びペダルを踏むと、今度はいつもと変わらない一人分の重さでスムーズに漕ぎ出すことが出来た。

そんな夢を見た。

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