第五百四十九夜

 

部活の午前練習のために早起きして身支度を整えて居間に向かうと、寝間着姿のままの父がコンロに向かい朝食の準備をしていた。今日は父がリモート勤務で朝食当番らしい。

棚から皿と椀とを取り出して父の脇に並べながら、
「昨日の夜、トイレに起きたときなんだけど」
と、昨夜の奇妙な体験を話してみる。

用を足してトイレを出ると、普段は居間で寝ているラブラドールがこちらの足元に寄ってきて、廊下の奥を睨みながら低く唸った。彼女の視線を追って居間を見ると、半端に開いた居間の扉の向こうに髪の長く背の高い女が俯きながら立っている姿が見えた。驚いて、犬を連れ自室に戻って寝たのだが、あれは何だったのだろう。

父は三人分のハム・エッグを皿に盛りながら、
「昔の映画にそんなのがいただろう」
と微笑み、寝惚けた故の何かの見間違え説を唱える。

そこへ寝室から着替えを済ませた母がやってきて、おはようの挨拶を交わす。朝食前でまだ化粧をしていない彼女の顔色の優れないのを見て、
「余り眠れなかったのかい?」
と父が心配の声を上げる。

母は足元へ寄ってきた犬を撫で、餌皿にドッグ・フードを盛りながら、
「嫌な夢を見ただけ。髪の長い女に首を締められるの。昔観た映画のせいかしらね」
と小さく笑った。

そんな夢を見た。

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