第五百二十五夜

 

疫病騒ぎもそれなりに落ち着いているからと彼氏に誘われて、有名な神社の最寄り駅で待ち合わせをした。

待ち合わせ場所に着くと、予定時刻の十分前だというのに珍しく彼が先に到着していて、肩を窄め、缶コーヒーで手を温めながら立っている。

小さなキャリー・ケースをゴロゴロと引き摺りながら駆け寄ると挨拶もそこそこに、
「それ、俺が持つから」
とぶっきらぼうに言い放って私の手からキャリー・ケースの取っ手を奪う。

初めて見る紳士的な姿に内心目を丸くして彼を見る。態度のぎこちなさは慣れないことをする照れ故だろうから、この際不問に付すとする。

予想外に彼が早く来たもので、初詣の列に並ぶ前、駅に着いて彼の来る前に用を足す予定でいたことを伝えて、構内のトイレに行く間だけ待つように伝えると、彼も用を足しに付いてくるというので、手を繋いで並んで歩く。

身の引き締まる寒気の中、それでも頬のつい緩むのを自覚しつつ、
「今日は何か珍しく優しくない?」
と尋ねると、相変わらずぶっきらぼうにそうでもないとだけ返ってくる。
トイレに着くと、
「これ、今いる?」
と彼は小脇に抱えたキャリーケースを小さく差し出す。頷きながら受け取って、
「折角キャスターが付いてるのに持ち上げて来たの?引き摺ってくればよかったのに」
と首を傾げると、
「いや、実はその音が苦手なんだよね。背筋がざわつくって言うか、正直怖いと言うか」
と頬を掻く。どういうことかと説明を求めると、
「昔、バイクで事故ったことがあってさ。幸い大した怪我はしなかったんだけど、ヘルメットが地面に擦れて何センチも摩り下ろされてて」。

ヘルメットの無残に削れた断面を見たとき、その中に頭をまるごと入れて聞いたその音に心底恐怖して、依頼地面にものの擦れる音全般がトラウマになり、またバイクに乗るのもやめてしまったのだと言い、彼は首を竦めて見せた。

そんな夢を見た。