第五百十五夜

 

棚に並んだ商品の写真を撮りながら、奇妙な事に気が付いた。

うちは小道具貸しの小さな会社で、都からほど近い田舎に倉庫を並べ、十数万店の小道具を管理している。時代ごとに形の変わる郵便ポストや公衆電話、撮影用に加工された家具類、その他細々したなど、無いのは衣装くらいのものだろう。

倉庫の棚には同じ種類のものはひとまとめに、年代の古いものから新しいものへと律儀に並べて管理されている。バケツならバケツで、鉄製、ブリキ製、プラスチック製とそれぞれまとめられていて、他のものが紛れていることはない。

が、イギリスの衛兵を模した人形の並ぶこの棚に、青いドレスを纏った陶製のフランス人形が一体だけ、赤い制服に黒い熊の毛皮の帽子を被った衛兵に寄り添うように座っている。実に奇妙だ。

その日のノルマ分の写真を一通り撮って事務所に戻り、PCに写真を移し、番頭さんにそれぞれの商品の名前を入力してもらう。長年商品の管理をしてきた彼の引退が近付きつつある。それに備えてPC上のデータベースで商品を管理するための作業なのだが、何せ商品数は十万件を超えるので、幾らやっても先が見えぬ気がしてくる。

キィ・ボードを叩くのに慣れぬ彼が伸びをして珈琲を淹れに席を立ったので、先程のフランス人形の写真をタブレットの画面に出して見せ、
「この棚、ちょっとおかしくありませんか?フランス人形の棚は別の区画にあるのに」
と言うと、
「ああ、そいつはな、特別なんだ」
と、火に掛けた薬缶の取っ手を握ってコンロに押し付ける。

ある時、テレビドラマの撮影の小道具に、イギリスの衛兵の人形の注文が入った。一口に衛兵人形と言っても、材質から大きさから多様なもので、番頭が小道具の担当者を倉庫へ案内して選ばせると、そのうちの一体がえらく気に入られた。人形を飾るのは主要人物の部屋の中の設定で何度も必要になるからと、三ヶ月に渡って貸し出す契約になった。

セットが組まれて実際に貸し出した後、数日して担当者から連絡が入った。
「変なことを言うようですが、あの人形って、何か妙な曰く付きのものだったりとか、しませんか?」。

社長も番頭も、何のことだかわからない。事情を尋ねると、セットを使う二度目の撮影時、箪笥の上に飾られた衛兵に寄り添うように、青いドレスを着た陶製のフランス人形が座っていた。撮影を終えた監督がなかなか絵になるけれど、前回撮影した絵と整合性が取れなくなる、誰かが気を利かせてくれたんだろうけれど片付けてくれと言うが、スタッフの誰も名乗り出ない。

その日はセットの裏へ片付けて撮影をしたのだが、次の撮影時にはまた衛兵の隣に座っていた。流石に気味が悪くなってうちへ連絡を寄越したのだという。
「普通、小道具屋なら必ずどこかに社名の版を押すなり、目印を付けるだろう?そのフランス人形にはその手の目印が何もなくてな。結局うちで引き取ったんよ」。

その後、倉庫の中でも例の衛兵の横へ勝手に移動してしまうから、もうそこが定位置ということにしたのだと、番頭は胡麻塩頭を掻いて笑った。

そんな夢を見た。

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