第五百一夜

 

帰宅して玄関の戸を開けると、一瞬遅れて灯りが点く。下駄箱の前に置いたゴミ箱に外したマスクを捨てて靴を脱ぎ、上着を土間の壁のフックに掛ける。上がり框を上がってそのまま流しと風呂・トイレとに挟まれた廊下を進むと、今度はその頭上の灯が灯る。手を洗ってうがいをし、買い物袋の中の食料を食器用洗剤で洗って冷蔵庫に詰める。

この疫病騒ぎが始まって以来、帰宅時お定まりの手順となった。やや潔癖が過ぎるのではと思わなくもないが、自分の身、周囲の人の身を守るのは結局自分の責任で、それを思えばこれくらいのことは当然という気もしてくる。

それにしても、便利な世の中になったものだと、米を研ぎながら思う。

何しろ帰宅してから手を洗うまで、部屋の中に手指を触れる必要がない。錠を掛けるのにサムターンを回すだけだ。それというのも玄関と廊下とに取り付けた、センサ付きの電球のお陰である。

電球にセンサが仕込まれていて、取り付けたらずっとスイッチをオンにして通電しておけば、後はセンサの範囲で動くものがあったときだけ灯るようになっている。実際、玄関の灯りはいつの間にか消えている。これがそこらの電気屋へ行けばごく当たり前に売られていて、特に値が張るわけでもない。センサが食う電力も高が知れていて、このご時世に安心を買えるのなら安いものだ。

研ぎ終わった米を炊飯器にセットして風呂に入る。

シャワを浴び、手拭いに石鹸を取って体を洗っていると、僅かに視界が暗くなる。背後の磨りガラスの戸の向こう、つまり廊下の電球が、動くものが無いと判断して消えたのだ。実に賢い。

続いて髪を洗い、泡を流して目を開くと違和感がある。明るい。

ぎょっとして振り返るといつの間にか廊下の灯りが点いているが、うちには同居人もペットの類も居ない。

恐る恐る戸を開け、顔だけを出して確認すると、玄関の電灯は消えたまま、廊下の電灯だけが明々と灯っていた。

そんな夢を見た。