第四百九十二夜

 

深夜頃にはここらも暴風域に入ると聞いて風雨の酷くなる前にとバイトを家に帰す約束をして、滅多に下ろすことのないシャッタを店の大きな窓の半ばまで下ろした。

ここは山中の盆地に田畑の広がる中、比較的住宅の多い幹線道路沿いのコンビニエンス・ストア兼、私の自宅である。元あった庭を潰して広めの駐車場にしてあり、集落の客の他にトラックのドライバの利用もあって、まあぼちぼちやっている。

こんな天気で集落の利用客は期待できなくても、ドライバは別だ。五・十日の締め切りは台風程度の災害では待ってくれない。

バイト君に店番を任せ、急ぎ自宅部分の雨戸を確認し、店の裏の風で飛ばされそうなあれやこれやを片付けて店に戻る。バックヤードでレインコートを脱ぎながら、バイト君にやや時間の掛かったことを侘び、給料は予定通りに出すから帰宅して良いと言ってやる。

が、
「店長、あれを見て下さい」
と店の正面玄関を彼が指す。タオルで顔を拭きながらそちらを覗くと、別に何事もない。厚い雲に覆われて薄暗い、雨の田園風景が広がるばかりだ。そう告げると、足元のマットのところを見ろという。
「ああ、ミケか」。

観音開きの硝子扉の前に、前脚を綺麗に揃えて坐る三毛猫がいた。普段はどこにいるのやら、夜中にトラックがやって来ると駐車場に現れて餌をねだる野良猫で、野良猫らしからぬ穏やかな目付きのせいか可愛がられて毛艶も良い。
「入れて欲しいんじゃないですか?」
というバイト君の言葉は、きっとその通りなのだろう。しかし、
「店に入れるわけにもなぁ」
と渋る。彼女を見掛けるようになって数年になるが、こんなことは初めてだから、
「今回の台風はよっぽど酷いことになるのかねぇ」
と思わず漏らすと、
「でも、あの子が入れてくれっていうなら、この店は安全なんじゃないですかね」
とバイト君が言う。暗に招き猫代わりに店に入れてやれという主張なのだろう。
「せめてキャリィ・ケースでもあればねぇ」
と言うと、
「あ、それなら近所に猫を飼っている家があるんで、ひとっ走り借りてきます」。
そう言うなり彼は防水の薄いパーカーを羽織って裏口から飛び出し、自転車を駆って住宅街へ矢のように飛んで行った。

そんな夢を見た。