第四百八十七夜

 

九月に入ってから後期の授業が始まるまでの間を選んで、私の所属するサークルでは毎年夏合宿をすることになっていた。

夏の最盛期を過ぎて料金の下がり、人出も少ない平日を中心に宿を借りて、朝から晩までかなり真面目に勉強会を行い、深夜に希望者で宴会をするそうだ。

宿はもう数十年も同じところのお世話になっていて、先輩方の行いが評価されて、この疫病騒ぎでも快く受け容れて下さるというので、そんな信頼のある団体に目をつけた自分に多少の誇らしさを感じると共に、その一員に相応しい振る舞いができるかどうかと不安にもなる。

オンライン会議で先輩から共同研究発表のグループ割を指示された後、そのメンバで引き続き会議を始めることになり、メンバの一人が立てた部屋へ入る。男女二人ずつの四名で、オンライン授業ばかりのために互いにほとんど面識がなく、緊張する。

簡単に挨拶を済ませた後、多少のよそよそしいぎこちなさはありつつも共同研究の題材と分担、研究と発表までの大まかな日割りが無事に決まる。

さて解散というところで、男性の一人が「あれ?」と声を上げる。何事かと問うと、私の後ろを誰か黒い影が通り過ぎたように見えたという。背後には通りに面した小さな出窓があり、多少なりとも冷房代の節約にと遮光カーテンが引かれ、小さなサボテンの鉢の他には何もない。
表の通りを誰かが通り過ぎたか、影がちょうど掛かるように鳥が飛んだか、何か外の光の加減がカーテンに映ったのだろう。

しかし彼は少しもめげず、何かぼんやりした生首のようなものがふわふわと宙に浮きながら横切ったように見えた、部屋の中をよく見てみろと興奮気味に話す。

馬鹿馬鹿しいと思いながらも、共同研究のメンバの空気を悪くして折角の合宿に支障が出てもつまらない。ノート・パソコンを持ち上げて、
「じゃあ、部屋の中に何もいなかったら満足ね?」
と席を立とうとしたところ、スマート・フォンがメッセンジャ・ソフトの受信を知らせる音を立てる。
「ちょっと待ってね」
と断って画面を見ると、ちょうど同じグループになった二年先輩の女子メンバから、
――今すぐ話をしたいから、電話が来たって言って、会議から抜けちゃって
とある。

何のことかと思いながらも先輩の指示である。指示通り画面のカメラ越しに非礼を侘びて会議アプリを終了させると、直ぐに先輩から着信があり、
「あれね、幽霊とかって多分嘘。春先の合宿のときにも同じようなことを言い出したことがあってね……」。
と、要するに女の子の部屋を映させて覗き趣味を満足させたり、部屋の間取りや外の様子から住所を割り出そうとしている変態野郎なのだと教えてくれ、世間の広さと自分の不用心さとに肝を冷やした。

そんな夢を見た。