第四百八十一夜

 

息子が夏休みの自由研究に天体観測をしたいと言い出して、まだ明るいうちに狭いベランダで三脚を立て、学習雑誌の付録に付いてきた小さな望遠鏡を組み立てて固定させられる。彼曰く、夕食を終えて日が暮れた頃、ちょうどベランダの向く空に、国際宇宙ステーションが見えるのだそうだ。

夕飯の炒めものをしながら「どこでそんな情報を」と尋ねると、何処かのウェブ・サイトを開いたタブレットを持ってきて「ほら、これ」と自慢げに見せ、今はどの方角に見えるとか、食に入って見えなくなるのがいつだとかをはしゃぎながら説明する。

なるほど、自分が子供の頃にもこんな物や情報が安価で手に入ったなら、自分も興味を持って空を見上げることが有ったかもしれぬ。

野球の中継を見ながらビールを片手に晩酌をしていると、早々に晩飯を平らげた息子はタブレットを片手にベランダと部屋とをソワソワと往復する。

まだ日も沈んでいないのだから落ち着供養に促すと、月のように薄く見えないか気になるという。仕方なく最後の肉切れを口に運んでビールを煽り、一緒にベランダを出る。

どれほどの精度があるかわからないがスマート・フォンのGPSで方角を確認しながらサイトの案内する辺りを睨むと、朧気ながら白く光る点が見える……ような気がする。雲の切れ端か何かかもしれないがと断って指差すと、息子は早速望遠鏡をそちらへ向けて覗き込むが、なかなかレンズに収まらず上下左右に振っては戻しを繰り返す。ほとんど目印もない空のごく小さな一点を高倍率のレンズに収めるのは、なかなか大変なことだろう。少しずつ動く鏡筒を眺めて、ビールで冷えていた身体が汗ばんできた頃、
「あっ」
と短い声が上がる。見付かったかと問うと、何だか黒くて変な形をしているから、別のものじゃないか、宇宙ステーションならば太陽光を反射して、もっと白っぽく見える、そんな写真をネットに上げている人も沢山いる、と興奮気味に話す。

促されるままに接眼レンズを覗くと、ちょうど鉄唖鈴のような、棒の両端に球の付いた物体がぴたりと静止したまま浮く姿が捉えられていた。

そんな夢を見た。