第四百七十八夜

 

顔を洗い、身支度を整えて自室を出ると、隣室の扉が開いたまま、中からごそごそと人の動く気配がした。

通りがかりに中を覗くと、箪笥の前にしゃがみ込んだ寮長が紙袋にその中身を詰めている。
――ああ、やはり駄目だったか。

そう思うと自然と視線が下がり、脚が止まる。この部屋の主は昨日の晩、交通事故で緊急搬送されていた。その後深夜に壁の向こうからガタガタと音がして、最後に趣味だった硬貨のコレクションでも眺めにやって来たのだろうと直感した。霊だの魂だのを積極的に信じているわけではないが、こんな事があると広い世の中にはそういうものもあっても良いのかもしれないと思う。

それで諦めは付いていたはずだが、それでも隣室の同僚が若くして命を落としたとなれば胸が詰まる。何か言いたいけれど、言うべき言葉も見つからず、
「まだ若いのに可哀想ですね」
とボソリと言うと、
「ああ、腰の骨をやられたらしいからなぁ。若いうちはそれほどじゃなくても、歳が行ったらあちこち響くだろうなぁ」
と寮長が応じる。
「え?」
と私が間の抜けた声を上げたので事情を察した寮長はさも愉快そうに笑い、
「死んでねぇ、死んでねぇ。これは入院中の着替えだよ」
と入院先の書かれたメモとともに紙袋をこちらに突き出して、持っていってやれと笑う。

同僚の無事を喜びながらそれを受け取って部屋に置いて気が付いた。昨晩隣室から聞こえた物音は、一体何だったのだろうか。

そんな夢を見た。