第四百七十七夜

 

疫病騒ぎで思うように会って遊ぶことの出来ない夏休みの夜、クラスの有志十人程でメッセージ・アプリを使って百物語の真似事をした。もちろん十人で百話も語るのは無理だから、それぞれ一話ずつだったが、それでも二時間近く掛かり、親から早く風呂に入れと叱られながらも皆の披露する怪談を読んだ。

それなりに盛り上がって解散した後風呂に入ると、どうも背後が気になって仕方がないが、まあ当然と言えば当然、何が起きるでもなく無事に風呂を上がり、髪を乾かす。

条件反射のように睡魔に襲われるが、今日は寝る前に一つだけやっておきたいことがある。

家族にお休みを言って自室に戻ると、財布から十円玉を取り出して親指と人指し指で摘んでみる。が、どう考えても寝ている間ずっと摘み続けてはいられそうもない。続けて掌に握り込んでみる。やはり無理だろう。

部屋を見渡して輪ゴムで縛り付けてみるがこれもこれも心許なく、結局セロハンテープを人指し指に幾重にも巻いて固定する。これならそう簡単には取れまい。安心して部屋の明かりを消してベッドに横になり、目を閉じる。

と、先程の怪談に引き摺られて頭の中に森のイメージが浮かぶ。誰の怪談だったか、
「この話を聞いた夜は、皆同じ夢を見るらしいんだけどね」
と始まったのは、こんな話だった。

夢は唐突に、薄暗い森の中の小川のほとりで始まるそうだ。直ぐ近くに小さな木製の立て札が立っていて「永遠の夢へようこそ」と書いてある場合もあるという。要するに、夢から覚めること、目を覚ますことができずに永遠に夢の中の森を彷徨うのだという怪談だ。

但し一つだけ解決策がある。森の中を探すと、ぽつんと一つ公衆電話があって、それで自宅か自分の携帯電話に電話を掛ける。すると現実世界で電話が鳴って、その音でだけ目を覚ますことができる。だから、公衆電話に入れる十円玉を持って寝なければならず、起きたときにはその十円玉は失くなっているのだそうだ。

もちろん馬鹿馬鹿しい作り話だとは思うけれど、万が一、話の印象に引っ張られてそんな夢を見ることもあるかもしれない。

目を閉じたままそんなことを考えながら、指先の十円玉の感触を確かめた。

そんな夢を見た。

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