第四百七十四夜

一学期末の定期試験を終えた午後の帰宅中、空に黒い雲の広がるのを不安に思っていると案の定、周囲が光ったかと思うと数秒の間を置いて雷鳴と雨粒とが降り掛かってきた。

鞄には折りたたみ傘が入っているが雨脚は強く、それを取り出すよりも先に、五十メートルほど先に見える線路下の小さなトンネルへ避難することにする。

駆け込むまでの十数秒で髪も服ももうすっかり濡れ鼠になり、革靴の中で靴下が水音を立てるのを聞きながら足を滑らさぬよう階段を下りる。

小さな川に掛かる鉄道橋の袂で地上の線路と高低差がないため、川岸の道は線路を潜る小さなトンネルになっている。ほんの六段ほどの階段を下り、長さも十メートルに満たないトンネルの中はしかし、厚い雲に日光は遮られ、日没までまだ四時間もあるために内部の電灯も消えたままで陰気に暗い。

その暗いトンネルの向こうの端近くに、二つの光る点が見える。目を凝らしてみるとどうやら狸で、巣穴に戻れず雨宿りしているようだ。じっとこちらを見つめて警戒している様子だが、雨の中へ逃げていくよりはマシなのだろう。

そんなことより体が冷える。鞄からスポーツタオルを取り出して髪と服を拭くうちにもどんどん雨脚は強くなり、トンネルの階段を滝のように水が流れてくる。

ひっきりなしに雷光が閃き、雷鳴が轟く。時折生木を裂くような音が腹に響くのは、何処か近くに落雷したものだろう。その度に狸は辺りをきょろきょろと見回し、特に危険がないと分かるとこちらに視線を戻して警戒を続ける。

靴下を脱ぎ、靴と足とを拭いてなお雨の止む気配もなく、小さな折りたたみ傘でこの豪雨の中を歩く気にもならず、明日の試験科目のノートを取り出して、雨の止むのを狸の傍らで勉強をしながら待つことにした。

そんな夢を見た。