第四百三十二夜

 

社外での用事を終えて乗り込んだ夕方の列車は、このご時世とまだ定時前ということもあってかなり空いていた。
それでも扉付近の席は埋まっており、ソーシャル・ディスタンスを意識して車両の端の空席に腰を下ろし、スマート・フォンを取り出してニュースの見出しを眺め、目を引く記事に目を通す。

暫く下を向いて記事を読むうち、何処かから強烈な視線を感じて驚いた。見られている、というよりも、睨まれているというような不快感を伴うそれに思わず顔を上げ、悟られぬよう目を細め、顔を動かさずに目だけを動かして周囲を見回すが、車内にこちらを向いた顔はない。そもそも人が少ないし、皆一様に俯いて、手にした本、参考書、スマートフォンなどに熱中している。

気のせいかという考えも頭を過るが、睨むような視線の感覚は未だ消えていない。心中で首を傾げながら顔を下げようとして、視界の端に、こちらを睨む子供の顔が飛び込んで来る。連結部の扉のガラス窓の向こうから、窓枠の高さギリギリに鼻を覗かせるほどの小さな男の子が、無表情でこちらを見つめている。

子供の下校時間ではあるが、それにしてもなぜあんなところに立っているのだろうか。疫病騒ぎで多くの人の出入りする空間を避けるためか、はたまた子供の気紛れか。そもそも、自分が電車に乗り込んだときに、少年はそこに居ただろうか。気付かぬうちに乗り込んできたのだろうか。見つめるにしても何故私なのか。

不快な視線を感じたままそんなことを考えながら、スマホのニュース記事を読むともなく眺め、列車が社の最寄り駅へ着くのを待った。

そんな夢を見た。