第四百二十七夜

 

このご時世で年末年始に帰省できずにいた郷里の様子が、朝食を作りながらBGMに流していたテレビのニュースに映った。

何やら感染率が急激に高まっただか、市内の病院でクラスタが発生しただかで、見覚えのある街並みを背景に数人がインタヴュを受けている。

便りがないのは良い便り、何かあれば向こうから連絡してくるだろうとは思うものの、ハム・エッグを食べているうちに段々と不安になってきて、偶には電話くらい掛けてみるかと思いながら洗い物をする。

一通り片付け終え、あちらも落ち着いた頃合いだろうと電話をすると直ぐに母が出て、心配のし過ぎと笑い飛ばす。

そのまま世間話をするうちに墓がどうのという話になる。

墓といえば、昨年は毎年欠かさなかった墓参りが遂に出来なかった。毎年それを欠かさなかったのには、ちょっと変わった理由がある。

小学校に上がるかどうかの頃だったろうか。夜中に寝ていると、定まって深夜に目が覚める時期があった。ただ目が覚めるだけなら何でも無いのだが、当時は必ず金縛りに遭い、身動きの取れない私の顔を、青白い顔の少女が真上から覗き込んでいるのだ。そうして怖い怖いと思っているうちにいつの間にか眠ってしまうのか、気がつくと朝になっている。

そんな日が幾日か続き、遂に母へ相談すると、実は私には産後直ぐに死んだ姉がいて、生きていればきっとその少女くらいの歳だろう、仏壇によくお祈りすれば見なくなるだろう、そう言われて仏壇に手を合わせると、確かに少女を見なくなったのだった。
「そういえば去年は墓参りに行けなかったけど、姉さんの幽霊は見てないな。もう成仏しちゃったのかな」
と切り出すと、
「あら、あんたあんなの未だ信じてたの?」
と母は声を立てて笑う。何のことかわからずに声を出せずにいると、
「あんたが訳のわかんないことを言うもんだから、安心させようと思って適当なことを言っただけよ。仏壇に遺影もおいてなかったでしょう?」
「それは、お父さんが思い出して悲しむからって……」
「ああ、そんな風に言ったっけ。我ながらよく咄嗟に思いついたわね、そんな出任せ」
と、母はさも楽しそうに笑うのだった。

そんな夢を見た。

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