第四百二十二夜

 

仕事初めから間もなく、再び不要不急の外出を避けるようにお達しが出た。

幸いにも夫婦揃ってテレ・ワークで済む仕事をしているからたまの買い物以外に外出の必要はないのだが、通勤の際の最低限の運動さえ無くなるのが難点で、既に正月太りで付いた贅肉を互いに摘み合い、夜に少し長めの散歩でもしようかと冗談を言っていたのが現実味を帯び始めている。

それはさておき、互いに仕事を終えると上着を羽織って買い出しに出る。一週間程度の食料品と、最低限の日用品の備蓄をして、暫くは家に籠もっていられるようにする計画だ。こういうときだけは自家用車があってよかったと思う。

駅から少し離れた大型の商業施設の駐車場へ車を駐めて外に出ると、打ちっぱなしのコンクリート特有のカビ臭さと冷気に首が竦む。急いで暖房の効いた店内へ続く自動ドアを潜り、二人並んで売り場階へのエレベータの到着を待ちながら、向こう一週間で食べたいものや在庫の少ない日用品を検討する。

ポンとエレベータの到着を知らせるチャイムが鳴って象牙色の扉が左右に開くと、思わずキャっと声が出る。

エレベータの籠の奥に木製のロッキング・チェアが置かれていて、口をへの字にして泣き顔のピエロの人形が座っていたのだ。

夫が平気な顔で、
「正月にピエロって、どこかの習慣なのかな」
と笑いながら乗り込むので、仕方なくそれに続いて乗り込むと、人形に背中を睨まれているような気分になる。

やがて目的の階についてエレベータを降り、
「びっくりした、せめて泣き顔なんかじゃなく、可愛く笑っている人形なら良かったのに」
と愚痴を漏らすと、
「え?大きな口で笑っていたよ?」
と夫が目を丸くする。

そんな馬鹿なとエレベータを振り返ると、ちょうど象牙色の扉がピタリと閉じるところで、その表情は確認できなかった。

そんな夢を見た。

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