第四百十二夜

 

給食の時間が終わって昼休みになると、クラスの中でいちばん脚の速い男子が弾けるように廊下へ飛び出して行く。

私もそれに続き、一応は駆け足禁止となっている廊下を駆け抜けて一階の渡り廊下へ出る。

雨の日の昼休みは、校庭で遊べない代わりに体育館が開放されるのだが、四つしか無いバスケット・ゴールはクラス同士での取り合いになる。ルールは単純明快、早い者勝ちであり、体育館までの距離の遠い私のクラスは若干の不利があったが、先着四クラスから漏れることは滅多にない。

今日もうちのクラスの男子はこの時点で三位であり、ゴールの利用は確定的となった。

体育館の厚い観音開きの扉へ、
「いち!」
「に!」は
「さん!」
と、各自が自分の順位を宣言しながらタッチして、一度呼吸を整える。扉を開ける際には厳格な規則があり、まず先頭集団の後に続く私達のような一団が十分に速度を緩めたのを確認し、開く扉にぶつかるようなことのないよう安全を確認する。その後、三位と四位が左右の扉を開き、宣言した順位に従って体育館へ入るのだ。この順番をないがしろにすることは、決して許されない。

今日も例に漏れず、扉の前で得意気に腕を組んで仁王立ちの一位と二位の子の前で三位と四位が扉に手を掛け、引き開ける。

すると、

べンッ
と、何か湿気たような高い音がして、次の瞬間に一位の子が尻餅を搗く。間を置かず、へたり込んだ彼の足元へ上履きが落ちてくる。どうやら彼の顔に当たって跳ねたらしい。

不意の出来事に辺りは一瞬静まり、にわかに騒がしくなる。へたり込んだ彼を心配する者、体育館の中へ入って犯人を探す者、外に居た以外には誰も居なかったことがわかると、上履きを飛ばす仕掛けを探す者、そもそもそんな仕掛けが作れるのか検討を始める探偵小説の主人公のような者、仕掛けはわからないが、片方の上履きの無い子を探せば、その人物がなにか知っているに違いないと刑事ドラマのようなことを言い出す者。

冷たい雨の降る体育館の入り口は、異様な熱気に包まれた。

そんな夢を見た。

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