第四百四夜

 

勤め先から車に乗って三十分、最寄り駅の近所まで来て、最近珍しいくらいの渋滞にぶつかった。

前方が動かぬのを見てハンズ・フリーのまま妻に状況を報告し、ついでに量販店での買い物でも無いかと打診する。が、返事がない。夕食を作るのに忙しいか、はたまた長電話でもしているか。パートのシフトが遅いこともあるにはあるが、今朝確認したときには聞いていない。

あれこれ考えつつ返事を待つうちにゆるゆると列が進み、前方の見渡しが効くようになると、渋滞の原因がようやく分かった。

検問だ。

盆や年末年始の飲酒運転防止キャンペーンなら兎も角、こんな中途半端な時期、中途半端な時間帯に珍しいこともあるものだ。この時間は交通量の少ない上りの車線までが、結構な列を成している。

一台また一台と検問を抜けて順番が回ってくる。窓を開けて話を聞くと、やはり飲酒の検問らしい。まだ午後六時にもならぬというのに、捕まる者があるのだろうか。婦警の指示に従って測定器に息を吹きかけると、当然ながらアルコールは出ない。
「お気をつけてお帰り下さい」
「寒い中、ご苦労さまです」
そんな遣り取りをして窓を閉じ、そこから先はすんなりと家に着く。

ノブに手を掛けて引っ張ると、予想に反してびくともせずに思わずつんのめる。家に娘一人でもなければ鍵を掛けない妻だが、この時間に外出する用があるとは聞いていない。

少々不安になりながら鞄から鍵を取り出して戸を開けると、廊下の奥、居間の扉の陰からこちらを窺う妻と娘の姿が見える。何をしているのかと尋ねるより早く、彼女らの口から揃って安堵の声が漏れ、
「怖かったのよ、駅前の大きな警察署から、取調べ中の殺人犯が逃亡したって言って……」
と妻の早口な説明が続く。

なるほど、あの検問もそういうことだったかと一人頷きながら、後ろ手に戸の鍵を掛けた。

そんな夢を見た。