第四百一夜

 

語学の授業で同級の、線の細く整った顔立ちの割に地味というか陰のある女子に気を惹かれていた。授業の終わりに声を掛け、学食で昼食でも一緒にどうかと尋ねると、やんわりと断られるが、こういうものは一度で諦められるものではない。めげずに食い下がると、
「私、人と一緒に食事出来ないんです」
と淋しげな目をして不思議なことを言う。

物を食べる姿をはしたないと思うような古風な価値観の持ち主かと尋ねるとそうではないと首を振り、
「変なことが起きるので」
とますます眉根を寄せて頭を下げる。

どんなことが起こるというのか尋ねると、変な噂をされたくないと当然の拒否をされ、
「じゃあ、絶対に他人に言わないから、一度だけ一緒にご飯を」
と言うと、どうにか渋々頷いてくれる。既に彼女への好意というよりは、一体何が起きるのかという興味で気分が昂っているのを自覚する。

まだ昼まで時間のある学食は人が疎らで、彼女の申し出に従って隅の目立たない辺りの席に荷物を置き、二人並んでトレイに思い思いの皿を取って会計を済ませて席に着く。

私はサンマ定食とラーメン・ライス、彼女はアサリのパスタにサラダと小さなスープを前に手を合わせ、頂きますと挨拶をして箸を取る。と、
「食べ物を口に入れたら、何か硬いものが入っていないか舌でよく探ってから噛むように、気をつけて下さい」
と、麺を啜り始めたところへ声を掛けられ、驚いて目だけで彼女を見ると、前歯にカチリと何かが当たる。

慎重に舌で探って麺だけを噛み、飲み込むと、何やら丸くつるりとした親指の先ほどのものが舌の上に残る。
「ごめん、出していい?」
と舌足らずに言うと、彼女はテーブルに置かれた紙ナプキンを二枚ほど取って渡してくれ、そこにそれを吐き出す。見ればそれは、
「ビー玉?なんで?」
と、頭の中が疑問符で埋め尽くされる。

トレイの上のものは全て自分で選んだし、トレイから両手を離したタイミングは無い。彼女の方も似たようなもので、ラーメンを手にとってから会計を済ませ席に戻るまでの間に、丼の中へこんな物を忍び込ませることなど不可能だったろう。
「えっと、人によるみたいなんですけど」
と、相変わらず眉をへの字にした彼女が、
「家族以外と一緒にご飯を食べると、誰か一人の食事に何かが混ざるらしいんです。中学校までは何でもなかったんですけど、高校からはずっと」
と言って頭を下げ、異物の混入した昼食代を弁済すると言って財布を取り出すのを遮り、冷める前に食べなきゃ勿体ないと大袈裟にラーメンを啜ってみせた。

そんな夢を見た。