第三十夜

窓を叩く雨音に気が付くと、キィ・ボードに手を乗せたまま舟を漕いでいた。無理な格好で頭の重量を支えたために、首の後ろの筋肉が凝って頭痛がする。心拍に合わせて目の奥から後頭部へ、重い痛みがうねるように襲う。天気が悪くなると、気圧のせいか湿度のせいか知らないが、時折酷い頭痛がするのだ。

明日が締め切りの書類を片付けねばならない。とはいえ既に粗方片付いていて、残る作業は細かな修正や確認を行う程度である。

画面の時計は深夜の二時過ぎを示している。雨の降る中を終電で帰宅して風呂から上がったのが一時過ぎ。画面のカーソルの進み具合を見るに、寝ていたのは三十分ほどだろうか。他人より睡魔に強いつもりだったが、気付かぬうちに疲れが溜まっているのか、或いは歳のせいか。いずれにせよ、これほどの頭痛では仕事に差し支えるだろうし、その頭痛を抱えながらうっかり船を漕ぐほどの睡魔に襲われているのだから、明日の朝までに体調を整えねばならぬのも事実である。多少の粗には目を瞑り、最低限の仕事をしたら今日はもう休もう。少し眠れば頭痛もマシにはなるだろう。

抽斗から目薬を取り出して注し、目を強く閉じながら両腕を挙げ、背と腰とを伸ばし、肩と首とを回して今日最後の気合を入れて画面を睨む。

が、窓を叩く雨音に頭痛が増幅されるようで、文字が少しも頭に入ってこない。これはいよいよ重症である。もう一度目を瞑り、重い頭を無理に振る。痛みで多少目は冴えたが、頭痛の方は増すばかり。一刻も早く横になりたいと、キィ・ボードを叩き始める。

と、窓の外が光る。同時に腹を揺するような轟音が轟き、視界が暗転した。落雷による停電だ。部屋の灯は勿論、目の前の画面は暗転し、コンピュータの冷却ファンも沈黙している。

最後に書類を保存したのはいつ頃だったか、作業がまるごと水の泡、いや、電子の海の彼方へと消え去っていった。

真っ暗とはいえ勝手知ったる自室のこと、手探りでベッドを見つけ、大の字に寝転がる。

そんな夢を見た。