第三百九十八夜

 

居心地が悪いのと申し訳ないのとで、断られつつも母の洗い物を手伝い、居間へ戻ると、何やら楽しそうに父と夫が食後のお茶を飲んでいた。

お腹がいよいよ大きくなって休職し里帰りをしているところへ、来なくていいと言うのに週末に夫がやってきたのだった。

父のお茶のお代わりを淹れながら、体調が良いのなら折角のお天気だし、少し二人で散歩でもしておいでと母が言う。無理な運動が良くないのは勿論だが、運動不足で筋肉が衰えるのも良くないそうだ。つくづく、母になるというのは大変なものらしいと言うと、
「なってからの方がよっぽど大変」
と母が笑う。

結局、勧めに従って二人で特に目的地も無く出発すると、
「昔通ってた小学校が、遠くないなら見てみたい」
と夫が言う。そんなものを見て何が楽しいのかと思いつつ、かつての通学路を案内する。もう一昔では済まない昔に通っていた道で、所々見慣れぬ建物に変わっていたりはするが、当時と殆ど変わらぬ風景が懐かしい。

少し歩くと、黄色く色付いた八ツ手の立ち並ぶ神社の鳥居が見えてくる。
「ほら、あの神社の手前で右に曲がると小学校」
と指差すと、
「おお、あそこが」
とやけに反応が良い。特に有名な神社でもなかったはずだが、彼に神社への興味なんてあったかと尋ねると、
「さっきお父さんに聞いたんだ、不思議な石があるんだって?」
と目を輝かせてこちらを見る。

そう言われて思い出す。子供の頃に病気で入院したことがあるのだが、退院した際に祖母とこの神社へ来て、不思議な石を持ち上げたのだ。
「おもかるいし、っていうんだっけ?本当の事を言いながら持ち上げると軽々持ち上がって、嘘だとびくともしないって」
と私の顔を覗き込むので、
「多分二十キロくらいかな、大きめのリュック・サックくらいの大きさの石なんだけど、小学校入りたてで病弱だった私でも持ち上げられたんだよね。もう大きな病気にならないって言いながら」
と頷く。

ちょっと立ち寄って、今度のお産が無事に行くかどうか石を持ち上げてみないかと誘う夫に、もし持ち上がらなかったら怖いから今まで無事に過ごせたお礼のお参りだけしたいと答えると、彼は案外すんなりと引き下がって財布を取り出し、五円玉を探し始めた。

そんな夢を見た。