第三百八十五夜

 

終業時刻を迎えて多くの教員が帰宅する中、私を含む数人が職員室に居残った。

夏休み明けの試験の答案を採点しデータベースに入力する作業がまだ残っている。急ぎの仕事ではないのだが、個人情報云々がうるさくなって答案を自宅へ持ち帰ることができなくなり、分残業には緩くなった。それならば、特に早く帰ってすることもなし、帰宅して自室の冷房に電力を消費するよりエコだろう。そんな理由で暫く作業を続けることにした。

同じ居残り組の面々も、事情は似たようなところだろう。珈琲を淹れるがどうかとか、台風が向かうという実家が心配だとか、散発的に言葉を交わしながら仕事をしていると、ガタンという大きな音とともに水筒の蓋に注いだ茶の水面に波紋が浮かび、思わず音のした天井を見つめる。ガタガタと連続して、金属音混じりの硬い音が暫く続き、止んだ。
「……上で何か、倒れましたかね?」
と誰かが誰へとなく問う声を、
「真上でしたよね、うちのクラスです」
と怒気の込もった声が掻き消し、声の主たる三年の学年主任がコルク・ボードから教室の鍵をひったくるように手にして職員室を飛び出してゆく。

残った我々もその剣幕に引き摺られるように廊下へ出て、早足に階段を上る。

踊り場で反転して階段を駆け上がると、開け放たれた教室の引戸の前で、学年主任が立ち尽くしている。

恐る恐る、
「どうしましたか?」
と声を掛けて教室を覗き込むと、教室の真ん中からとぐろを巻くように、机がドミノ倒しの要領で半ば重なり合って倒れていた。

そんな夢を見た。

No responses yet

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

最近の投稿
アーカイブ