第三百三十四夜

 

乗降客のほとんどいない改札を抜け、車両で見つけた同級の友人二人と並んで、学校へ向かって歩き始める。真っ昼間の通学路を歩くのが初めてたからだろう、新鮮さと居心地の悪さを感じる。

期末試験の採点が終わり、成績表の配布と新学期までの自習用課題の配布を兼ねた登校日を設けるとの連絡が昨日あった。但し、大人数を集めないように、各学年一クラスずつ、九十分ずつ集合時間をずらす処置をとるという。その結果、私と級友達は正午に登校することになったわけだ。

九十分というのも、下校する生徒と登校する生徒がすれ違わぬよう多めに猶予を取ったものだそうで、確かに向こうから歩いてくる生徒は一人もいない。

四月になれば授業が再開するのだろうか、このまま受験となったら自習で対応できるだろうか、それより修学旅行が潰れたらどうしよう。そんなことを話しながら歩くうち、薬局前の大きな交差点で赤信号に捕まった。

胸ポケットのスマート・フォンが鳴り、雑談を続けながら画面を見ると、先に登校していた別のクラスの部活仲間からの連絡だった。

返事を打ちながら友人の話に相槌を打っていると視界の端で歩行者信号が青に変わるのが見え、続きを打ちながら歩き出す。と同時に、
「ちょっと、赤、赤」
の言葉とともに横から肩を掴まれ、驚いて立ち止まったすぐ目の前を大型トラックが通り過ぎる。

全身が粟立つのを感じながら、謝罪と感謝の言葉を出鱈目に述べた後、
「何か一瞬、信号が青になったように見えてね……」
と弁解すると、
「あ、わかる。私もそれ何度かある」
と、友人の一人が頷いて、
「何かここ、気味悪いよね」
と、カード・レイルの端に置かれた花瓶に目を遣った。

そんな夢を見た。

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