第三百三十三夜

 

ドライヤの温風を髪に当てながら、バッサリと切ってしまおうかと鏡を見つめる。

どうせ学校は四月の新学期まで始まらないし、友達と何処かへ遊びに出掛けるというのも色々と不安だし親も良い顔をしない。家を出る機会も家族以外の人間に合う機会も殆どないのに、毎日長い髪を洗って乾かしてというのは労力に見合わないのではないだろうか。

学校が休みなもので、通信教材と学校から送られてきた課題の他は、ベッドでだらだらと過ごすばかりの日々で、ついそんなことを思う。

居間に戻ると野球部の練習が出来ずに体力を余らせた弟が、坊主頭でスクワットをしていた。彼は私を見ると入浴前の運動を止め、
「髪を乾かすのは自分が風呂に入ってからにしてくれ」
と言うので、
「あんたの頭が羨ましいわ」
とだけ返して階段を上る。

自室のドアを開けると、箪笥の下部の抽斗が開けっ放しになっている。風呂に入る前に下着を取り出した際に閉め忘れたろうか。閉めようと部屋へ脚へ踏み入れようとした瞬間、右手の机の上でカタンと音がする。思わず振り向くと、風呂へ呼ばれるまで齧っていたお菓子の円筒形の容器が倒れ、白いTシャツと緑色のジャージのズボンを穿いた、掌大のおじさんが机から飛び降り、そのまま奥の箪笥まで駆けて行き、開いていた抽斗に飛び込んで見えなくなる。

何が起きたものか、暫く理解できずに立っていたが、意を決して箪笥に一歩一歩、足音を立てぬよう歩み寄り、抽斗の中を覗く。

そこには自分で畳んで仕舞った下着類が綺麗に並んでいるばかりで、当然といえば当然ながら、おじさんの姿は無い。

何だったのかと首を捻りながら抽斗を閉じようと押して、先程のお菓子が一欠片、下着の上に落ちているのを見つけた。

そんな夢を見た。