第二十六夜

「かあいそう」

春めいて柔らかい日差しの下に甲高く舌足らずの声が響いた。何事かと目を向けると、揃って桜色に装った母娘が上を見上げている。その視線の先から、脚立の上で桜の枝を打つ胡麻塩頭の職人が笑いながら諭す。

動物と植物とを一緒にして考えるものじゃない。これはなぁ、お医者さんみたいなもんなんだ。傷が付いて腐った枝、病気になった枝なんかは、幹の方まで悪さをする前に切り落としてやらなきゃ、木そのものが駄目になっちまう。本当なら、冬の始めにでも片付けたほうが良かったんだが。

両腕に持った鋏でばちりばちりとやられているのは、樹皮の様子からして桜である。花は無く既に若葉を茂らせているところを見ると、花の早い種類だろうか。

話しながらも次から次へ、まだ青い枝までばちりばちりとやるのものだから、少女はたまらず、
「そんなにたくさん、おびょうきなの」
と涙声で尋ねる。

病気だけじゃないさ。お嬢ちゃんも、髪の毛や爪が伸びすぎたら切るだろう。それと同じさ。付き方の悪いのはどうせ伸びても葉に光が当たらないからすぐに病気になるし、変に大きく成長すれば重みで折れたり、倒れたり、兎に角、碌なことにならねぇんだ。

仕事に一段落付いたのか職人が脚立を降りて姿が塀に隠れて見えなくなったかと思うと、塀の先から一尺ばかりの青々した枝を持って現れた。

こいつは元気がいいから、花瓶に挿して液肥をやりながら日向に置いておけば、ひょっとしたら根が出るかも知れん。できたら硝子瓶でなくて、陶器の花瓶が良い。ちゃんと世話をするなら、持っていけ。

笑って受け取る娘の横で何度も頭を下げる母親に、どうせ捨てるものだからと手を振って、職人は門の内へと引き返す。

そんな夢を見た。