第四百四十二夜

 

オンラインでの会議を終え、すっかり冷めた珈琲を淹れ直してパソコン・ラックへ戻ってくると、上司からの通話要求を知らせるサインが点灯していた。

慌てて通話を開始し、カップを見せながら待たせたことを謝罪すると、彼は、
「それは気にしなくていい」
と頷いた後、猫か鳥か、何か小動物を飼っていたかと不思議そうな顔をして尋ねる。

自分は小動物は好きなのだが、実家の犬が死んだときに酷く辛かったこともあり、現在借りている安い部屋がペット禁止なこともあり、意図的に飼育している動物はいない。
「部屋の中の生き物といえば……」、
リモートで部屋の様子を殺風景と言われたのを契機に、小洒落た硝子瓶でヒヤシンスの球根を水耕栽培しているくらいだ。

そう説明しながらカメラの視野の隅へ身体を反らし、背後の棚の上で緑の葉を伸ばすヒヤシンスを写してみせる。

上司は眉を寄せて数秒間じっと画面を見つめてから、
「そこに暖房の風が当たったりはしない?」
と尋ねるので、ウェブ・カメラを手にエアコンを写し、その吹出し口が明後日の方向を向いていることを説明する。

それを聞いた彼は、
「さっきの会議中、君の後ろでずっとそのヒヤシンスの葉が揺れていたんだよね。手でも振っているみたいに。身体に隠れた死角で、猫が揺らしてでもいるのかと思ったのだけれど……」
といよいよ首を捻り、最後に、
「変なことを尋ねて済まなかった」
と言って通話を切った。

そんな夢を見た。

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