第六百十六夜

 

友人と二人連れで映画を見た帰り、夕食を摂るにはまだ早く解散するにはまだ早い。何か甘いものでも食べるのに良い店はないかと繁華街を並んで歩いていた。

暫く歩くと、髭を生やしナイト・キャップを被った妖精か何かが看板を掲げて入口の脇に立っている洋菓子店が目に入る。妖精はもちろん本物ではなく、セルロイドか何かの人形だ。

ここへ入ってはどうかと提案すると、友人から即座に却下される。理由を尋ねると、昔からあの手の人形が苦手なのだと、機嫌の悪い犬を遠巻きに見る子供のような顔をしてみせる。

嫌がるものを無理に曲げさせてまでその店を選ぶ理由もなく、もう少しだけ歩いて見付けた小さな喫茶店に入り、適当に甘いものとコーヒーとをトレイに載せて会計を済ませて席に付く。

お茶請けにと人形が苦手という理由を尋ねてみると、子供の頃に帰省した際に彼女のお祖父さんがしてくれた怪談のせいだという。

市の清掃局で働いていた頃のこと、不燃ゴミを処分場へ送る前に、大きなプレス機でゴミを押し固めて体積を小さくする工程があるそうだ。そこの担当をしていたとき、同僚から、
「おい、アレ見てみろ」
と言われたという。ベルト・コンベアに乗ってプレス機へ流れてゆくゴミの中に、何処かで見たような人形があった。
「ほら、あの店の」
と言われ、市役所近くに古くからある洋食屋の看板人形に思い至る。
「ああ、ご主人が歳で店を畳むとか」
「そうそう、寂しくなるなぁ」
と、そんな話が成り立つくらい、その地域では有名な店だったという。
しんみりしながらも普段通りに作業を進めていると、
ギャー!
と悲鳴が聞こえ、まさか作業員の誰かが巻き込まれたかと背筋に悪寒が走る。が、
ギャー、ギャー、ギャー
と同じ悲鳴が幾度も繰り返されるので気が付いた。プレス機の稼働時に鳴る警報音が何かの不具合で妙な音色になっているらしい。同僚と顔を見合わせて機械を止めると、やはり悲鳴のようなブザーは止まったという。そのまま警報機周辺を調べてみたのだが、特に不具合らしいものは見つからなかったのだそうだ。
「その話をきいてから、ああいう人形が気味悪く見えるようになって……」
と、友人は華奢なフォークでケーキをつつきながら苦笑いをしてみせた。

そんな夢を見た。