第二百六十八夜   朝、気温の高くなる前に仕事を済ませてしまおうと、春野菜の収穫を終えた畑に秋蕎麦の種を蒔いていた。朝飯時には仕事も終わり、荷物を纏めて帰り支度をしていると、畦道を水色の軽自動車が一台こちらへ駆 […]
第二百六十四夜   ジョギングを始めて半年経ち、正月の初売りで買ったジョギング・シューズも随分とすり減った。そろそろ新しい靴を下ろそうかとも思うのだが、雨で走れぬ日、走れても足元の悪い日が続いてなかなか踏ん切り […]
第二百六十三夜   九州から東北までを隙無く梅雨前線が覆って生憎の雨天となってしまったが、ワイパのちらつくフロント・ガラス越しの運転も、大型連休以来久しぶりのデートだから苦にならない。 何処へ行こうかと話し合っ […]
第二百六十二夜   露天風呂を堪能して部屋へ戻る途中、すれ違った仲居に地ビールを頼んだ。 汗をかいて火照った体に冷えたビールをと考えるだけで頬が緩む。出張で年中あちこち飛び回っているうちに、楽しみといえば酒ばか […]
第二百六十一夜   締め切った雨戸を打つ雨粒の音を聞きながら、普段呑まぬ芋焼酎を片手に普段見ない古い邦画を眺めていた。 母方の祖父母が週末を旅行して家を空けるので、その留守番役として白羽の矢が立ったのだ。いつ建 […]
第百八十一夜   事務所で机に向かいカタカタとキィ・ボードを打っていると、「こんにちはー」と語尾の間延びした大声とともに長い茶髪を襟足で一つに縛った女性が入ってくる。 仕事上の知り合いで、まだ若いのにこれでもか […]
第二百五十五夜   シュ……シュ……シュ 背後の荷台から断続的に、何かの擦れるような、或いは空気の漏れるような音が聞こえた。 「固定が甘かったんですかね。一度見てみましょうか」 と運転席を見ると、酒焼けした声が […]
第百八十一夜   顧問の先生が 「全員が終わったら、部長は報告に来い。そのまま解散でいい」 と言って姿が見えなくなるとすぐ、出されたメニュの半分も終わらないうちに投げ出した先輩の一人が、 「なあ、お前らは幽霊っ […]
第二百四十八夜   窓外で手を振る二人が見えなくなると、鞄から英単語帳を取り出す。自宅の最寄りまではあと二駅しか無いが、山奥へ向かうに連れて駅の間は広くなる。一駅十分、二十分ほどは明日の小テスト対策が出来る。物 […]
最近の投稿
アーカイブ