第二百九十六夜   空きっ腹と夕食の材料を抱えて帰宅し、ワンルームの狭い台所に立って驚いた。つい昨日まで何の問題もなく動いていた電気炊飯器の動作を示すランプが消えている。 恐る恐る蓋を開けてみれば、残業を見越し […]
第二百九十五夜   娘の出し物が終わると、次の種目まですっかり暇になってしまった。妻は一度自宅に戻って昼食の弁当の準備をするからと言って帰宅し、手伝おうかと提案したものの、普段から碌に料理をしてこなかった実績に […]
第二百九十四夜   バイトを終え、バックヤードで着替えていると携帯電話が鳴った。大学の友人の名前を確認し、イヤホンを耳へ刺して通話開始のボタンを押すと、何度も電話をしたのに何故出なかったと苦情が耳に飛び込んでく […]
第二百九十三夜   心配だから帰ってこいと言われ、台風の週末を実家で過ごすことにした。 どうせ風と雨で何処へ出掛けることも出来ないのは確かだが、田舎の木造平屋建と鉄筋コンクリートの単身者向けアパートとでどちらが […]
第二百九十二夜   「ねぇ、あの部屋は駄目だよ」。 始発前、二時間ほども寝ていない皆を叩き起こし、腹が減ったと言ってファミリ・レストランのチェーン店へ連れてきた張本人が、珈琲を一口飲んで放った第一声がこれだった […]
第二百九十一夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「小学校の頃、組体操ってやったことある?」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服 […]
第二百八十八夜   夕食に間に合うよう、陽の傾いた頃に友人と別れて帰路についたが、電車の中の人々も、マンションの共用玄関の自動扉も、やはり私が見えないらしかった。人とぶつからぬよう、自転車や自動車に轢かれぬよう […]
第二百八十七夜   友人の声に顔を上げ、本を閉じてベンチを立つ。雑貨屋や服屋を見て回るつもりで待ち合わせをしていたのだが、予定より十分早く着いてから三十分も待たされた。 寝坊でもしたかと尋ねると、彼女は私の横を […]
第二百八十六夜   打ち合わせを終えて外に出ると、低い雲が垂れ込めて辺りは既に薄暗くなっていた。秋の陽は釣瓶落としとはこのことか。 一雨来る前にと急いで事務所へ戻ると、独り留守番を任せていた事務員の女の子が青ざ […]
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