第五十二夜 きれいに短く切りそろえられた白髪頭を掻きながら老爺は淋しげに笑う。 「もう随分と長いこと、蝉の研究をしてきたけれどね、本当に、心の底から悔しいことが一つあるんだ」 「ほう」 と一つ返事をして、夕暮れの公園で友 […]
第五十一夜 雨が降らぬからいつまでも蒸し暑く、寝苦しい夜が続く。おまけに空調が故障し、時期が時期だけに工事の手配に時間がかかるというので、もう何日も苛苛と睡眠不足の夜を過ごしている。 高い不快指数に苛だったような、それで […]
第五十夜 屋根を叩く雨音が消え、雨の切れ間を盗んで近所のコンビニエンス・ストアへ買い物に出ようと思い立ち、部屋の鍵と財布とだけを手に部屋を出て、アパートの階段を降りる。また降り出さぬうちに用を足して帰りたい。濡れたアスフ […]
第四十九夜 ピィーヨ、ピィーヨと音がして、はっと目が覚めた。二階の出窓で日向ぼっこをしているうちに、いつものことながら眠っていたらしい。瞳を細めて音のした方を見やると、枯れ草色の鳥が一羽、木に留まって辺りをキョロキョロ見 […]
第四十八夜 「そろそろお前たちも大きくなった」 「ええ、もう翼の大きさは一人前ね」 燕の夫婦が三羽の雛たちにピイピイと宣言する。 「今日からは羽ばたきの練習を始めよう。なに、我々燕は風を切って飛ぶんだ。鴉が大きな体を、無 […]
第四十夜 用水路でカワニナを集めていると、下流の方から腰の曲がった白髪の老爺がやってきて、互いに挨拶を交わす。少し先の荒れた畑の前の畦道に、老爺は担いだ麻袋をどさりと下ろし、続いて腰を下ろした。 畑はまだ起こされていない […]
第四十六夜 西の空に半月の沈みかける頃になって漸く一仕事を終え、社用車を駐めたコイン・パーキングまで住宅街の路地を歩いている。昼間まではじめじめと蒸し暑かったが、日が暮れたからか、北風でも吹いたのか、いつの間にやら空気は […]
第四十五夜 事務所で机に向かいカタカタとキィ・ボードを打っていると、「こんにちはー」と語尾の間延びした大声とともに長い茶髪の女性が入ってくる。 仕事上の知り合いで、まだ若いのにこれでもかと派手な服装と化粧をしていることも […]
第四十四夜 暗い山道をハイビームで照らしながら車を走らせる。 席がお開きになってから車内で酒が抜けるのを待つうちについ眠ってしまい、日付も変わった頃合いである。今更急いで帰っても細君のお叱りは変わらなかろうから、努めて安 […]
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