第八十九夜

 

パチリ、またパチリと硬い音が繰り返されるのが気になって薄目を開ける。私を起こさぬよう気を遣っているのか照明は常夜灯のみで薄暗い中、傍らのソファで女が爪を切っている。私からはまともに色も見えぬ暗さで、
「危ないから灯を点けなさい」
と言うが、起こしてしまったと詫びてから、
「深く切るわけじゃないから」
と言って聞かない。

今日は何色のネイルをしていたかを思い出せぬことに軽い自己嫌悪と罪悪感を覚えながら、
「なら、明るくなってからではいけないのか」
と問う。彼女はこちらを見ることもなく相変わらずパチリ、またパチリとやりながら、
「嫌な夢を見たの。だから、これは厄落とし。おばあちゃんに習ったのよ」
と笑う。

どんな夢かと問うと、彼女はちょうど爪を切り終えたのか、何でもないと言って灯を消し、手探りで布団へ戻った。

そんな夢を見た。

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