第八十一夜

 

いつもの公園のいつものベンチに腰を下ろし、冷凍食品を詰め込んだだけの小さな弁当箱を膝に載せて噴水を眺める。

久し振りの秋晴れの昼休みに味わう、ささやかな贅沢である。

小さな弁当箱はすぐに空になる。水筒から熱い珈琲を一口飲んで席を立つ。

と、隣のベンチに黒いスウェットの上下を着た少女が独り、スケッチ・ブックを膝に立てて何やら色鉛筆を動かしている。視線の先を見ると、スフィンクスのようにお行儀良く腹這いになった白猫がいて、時折あくびを噛み殺すようにヒゲをヒクヒクと動かしている。きっと猫か、猫のいる風景でも描いているのだろう。

興味を惹かれ、彼女の邪魔にもならぬようそっと後ろへ回ってスケッチ・ブックを覗くと、一匹の三毛猫がスフィンクスのような姿勢で描かれ、今にもこちらを振り向くかと思うほどであった。

少女はひとしきり色鉛筆を動かした後、
「できたよ」
と言って白猫に手招きをし、スケッチ・ブックを反転させて絵をあちらへ向ける。呼ばれた猫は小走りで彼女に近寄り、瞳を丸くして絵を眺めた後、尻尾を高々と上げてニャと細い声を上げる。

それを聞いた少女は頷きながらスケッチ・ブックから絵を切り取ってくるくると筒状に丸め、足元に差し出す。白猫はそれを器用に咥え、前足をきれいに揃えてから彼女に一礼すると、私の横を走り抜けて公園の茂みへ姿を消してしまった。

白猫を前にして三毛猫を描いた理由を尋ねようとベンチを振り返ると、しかしそこには誰もいない。白猫を目で追った数秒で、噴水広場から姿を消してしまっていた。

そろそろ事務所に帰らなければと気を取り直すと、背後の茂みから一匹の三毛猫が現れ、ゆったりとベンチへ寝そべって日向ぼっこを始める。

その三毛の模様は先程の少女が描いていた柄そのものだった。

そんな夢を見た。

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