第七十七夜

 

柿や栗といった秋の味覚と引き換えに山の手入れを手伝ってほしいと友人に頼まれて引き受けた。早朝迎えに来た車に揺られて一時間、彼の実家で軽トラックに乗り換えて十五分ほど経ったろうか、山の中腹にぽっかりとひらけた私道への入り口に着き、入って直ぐのところへ自動車を駐める。

たまの休日を自然に触れて過ごすのも悪くない。彼曰く、少し山道を歩く程度で重労働はないそうだが、それでも日頃の運動不足の解消にも多少は役に立つだろう。そんな気持ちで引き受けた。なんでも彼の父が腰を痛めて、毎年二人でやっている山の管理作業が出来なくなったのだそうだ。小さな山だと聞いていたが、紅葉した林がどこまで続いているのか見当もつかない。奥へ伸びる道も直ぐ先で落ち葉に埋もれて見えなくなっている。こんなところを小一時間歩けば迷って出られないのではないかと嫌な想像が脳裏を過る。

彼は私に降りるよう促すと、軽トラックの荷台へ回って荷物を下ろす。二本のスコップのうち一本をこちらへ寄越し、リュック・サックにペンチ、掌大に巻かれた針金の束、赤いスプレー缶の入っているのを確かめて背負い、
「行こう」
と木々の間を指さして歩き出す。その後に付いて歩き出すと意外に傾斜がきつく、間もなく腿と尻の筋肉が悲鳴を上げる。周囲の林が濃くなる頃には、情けなくも杖の代わりにスコップを突いて体重を支えることになった。

こちらに合わせて歩調を緩めた友人は、
「すまんなぁ。すぐそこまでだから、頑張ってくれ」
と励ましてくれるが、私としては、
「歩くだけでこれじゃ、作業の役に立てないんじゃないか」
と心配する他無い。それでも、
「いや、作業自体は本当に簡単だから」
と笑う。どんな作業かと尋ねると、
「見れば分かるんだけど……」
そう前置きしてから、『人除け』だと教えてくれた。

曰く、この山には春は山菜、秋には柿、栗、柑橘の類を盗みに入る不届き者が絶えない。そこで、彼の父親が一計を案じて『人除け』のオマジナイをしたところ効果覿面だった。以来毎年、夏の終わりと春の始めにはそのオマジナイが動物や風雨によって傷んでいないかを確認し、補修しているのだそうだ。

どんなオマジナイなのかと問う私に、彼は林のひらけた先を指差す。

見ると、小さな小屋が建っており、その周囲は腰の高さほどの杭の先に突き刺された無数の生首や人の手足に取り囲まれている。小屋の窓は割れ、色とりどりのスプレーで落書きがされているようだ。よく見れば地面にも生首が転がって、赤い切断面をこちらに見せている。

呆然と声を失っている私に友人は、
「マネキンだよ。あれを見たら、頭のおかしいのが住んでると思って人が近づかなくなるだろう?実際、泥棒はほとんど来なくなったんだ。夏に肝試しに来るような連中は増えたみたいだけど、小屋の落書きはそいつらの仕業だろうな。かえって雰囲気が出て助かってるよ」
と笑いながら赤いスプレー缶を渡す。
「落ちてるマネキンの切断面に、適当に吹きかけて。乾いたら幾つかは杭に刺し直して、針金で縛るだけだから。倒れた杭は無いみたいだから、スコップは無駄だったな」
「いや、杖代わりに役に立ったよ」
赤いスプレー塗れのマネキン達に見つめられながらでは、そんな気の利かぬ言葉しか返せない。

無表情のマネキンにスプレーを吹付けながら、この中に本物の死体が混ざっているのではなどと思えてくる。

ふと、視界の端でマネキンが笑うのを見た気がして山に吹く風に震えた。

そんな夢を見た。