第五百七十七夜

 

陽がすっかり上ると、友人のクーラー・ボックスにも私のものにも釣果はなかなか増えなくなった。幸いまだ薄暗い朝マヅメのうちに目当てのアジも幾らか釣れていたため、ぼちぼち撤収の運びとなる。

友人の車に荷物を運び込んで時刻を確認するとまだ六時を回ったところで、地元へ戻るのにゆっくり走って四十分、釣果をゆっくり捌いても、休日の朝食らしい時間に収まりそうだ。

一度に荷物を運びきれず、堤防の先へ戻って行った友人を待つこと数分、流石に遅いと思っていると、友人からスマート・フォンに通話が入る。どうかしたかと尋ねると、消波ブロックの隙間に脚を付け根近くまで取られて抜け出せず、スマホを入れいていたポケットにもなかなか手が届かずに連絡ができなかったという。幸い近くの釣り人が気付き、二人掛かりで引き上げてくれたのだが、駐車場まで肩を貸り、荷物まで運ばせるわけに行かない。どちらかを頼みたいから迎えに来てほしいと言う。

二つ返事に引き受けて小走りに彼の元へ向かうと、ズボンのボロボロになった左脚を投げ出して折りたたみ椅子に座っていた彼がバツ悪そうに苦笑いをする。

彼を引き上げてくれた同好の士のお一方のご厚意に甘え、彼の荷物を車まで運んで貰い、連絡先を交換して別れる。

ズボンに穴が空いたくらいだから当然擦り傷は目立ったが、それでも骨に異常はないという。多少捻ったような痛みがあるため右脚だったら運転して帰れないところだったと軽口を叩いて車を出そうとする彼を制止し、最低限の救急箱は持っているからまずは左脚の傷を消毒しようと提案すると、彼も有り難いと言ってシートベルトを外す。薬箱のあるトランクを開けさせて車外に出、リア・ハッチを開くと、車内から彼の驚嘆の声が響いてくる。

何事かと助手席の戸を開けて中を覗き込むと、青い顔をした彼がズボンから引き抜いた左脚の足首を指差している。そこには踵側から指を回して掴んだような形に、はっきりと青い痣が浮かんでいた。

そんな夢を見た。

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