第五百三十三夜

 

風呂上がり後のあれこれを終え、いざ寝ようかというとき、お客の言葉を思い出した。
――四角い部屋の真ん中に布団を敷き、四隅を順に見回しながら寝る。

それは、金縛りに遭う方法だという。節分に恵方巻きは食べたか、タイム・セールで安売りになると値段の割に豪華な物が食べられるなんて雑談から、オカルティックな話になった。

同僚が、ダブル・デートで山の中の心霊スポットへ行ってあんな事があっただのと話す隣で聞き役に回っていると、何かそういう体験は無いのかと振られたが、色々あってそういうものを信じていない。とはいえすっぱりと否定すればノリの悪い子扱いは免れない。結果、
「そういうのに鈍いらしくて、金縛りにも遭ったことがないので……」
と言うと、
「二十歳までに無いとずっと無いって言うよね」
とか、
「深酒して寝たとき初めてなったから、そうでもないんじゃない?」
と、どうにか話を繋げてくれた。

そんな話の中でお客の誰かが先の方法を言い出し、皆で今夜やってみようと盛り上がった。

もちろん、社交辞令というやつで、誰も本気でやってみようなどとは思っていなかっただろう。私も全くその気は無かった。が、いざ寝るにあたってその言葉を思い出し、ちょっと検証をしてみたくなった。

金縛りとは入眠時の幻覚だと聞いたことがある。要は、夢を見ているのに自分は起きている、目を覚ましていると勘違いをしているということらしい。眠っているのだから身体を自由には動かせなくて当然なのだが、中途半端に身体が思う通りに動かないことを自覚してしまうせいで「金縛りだ」と認識するのだそうだ。

部屋の中央のテーブルを隅に寄せ、壁際のベッドから布団を持ち上げて部屋の中央に敷き直し、枕を置いて横になる。床に敷いた布団に寝るのは何時ぶりだろうか。中学の宿泊学習はホテルだったから、小学生の頃に旅館に泊まって以来、初めてかもしれない。

仰向けのまま首元まで掛け布団を引っ張り上げ、いざ屋根の四隅を順に見回すと……なかなか目が疲れる。特に頭の上方向、白目を剥くように眼球を動かすのがなかなか辛い。

そんなことをどれくらい続けただろう、ふと一つの真理に辿り着く。
――こんなことをしながら寝るとか、無理でしょ。

そんな夢を見た。