第五百三十一夜

 

予想だにしなかった間取りに虚を突かれ、
「何ですか、これ?」
と尋ねる間の抜けた声が、家具やカーテンの無い部屋に特有の残響を残した。担当者が苦笑いを浮かべて、
「出窓、だったものです」
と錠を外し、ガラスの窓を引き開ける。その直ぐ向こう、十センチメートルほどのところには、ねずみ色のタイルの敷き詰められた壁が広がっている。

単身者向けのアパートを探して手頃な物件を幾つか見繕い、不動産屋に内見を頼んだ二つ目の部屋だ。一階に美容室と団子屋、コンビニエンス・ストアが入った線路沿いのアパートで、電車が通ればそれなりの騒音がある代わりに駅から近い割に家賃が安いので候補に入れた。一つの階に七部屋並んだうちの階段から数えて三部屋目で、ネットの資料には正面通りに面したベランダへ続く掃き出し窓のある、ごく普通のワンルームといった紹介だった。

それが、縦に長い部屋の脇の中央部、入って右側に奥行き三十センチほどの出窓がある。勿論右隣も同じアパートの隣部屋ののはずだから、こんなところに窓があるなんて誰が予想するだろう。
「このアパートは、実は下のお団子屋さんがオーナーなんですが」
と、担当者が相変わらずの苦笑いで説明を始める。

二十年ほど前までは、下に美容室と団子屋の入った建物だけしか無く、この部屋が角部屋だったのだそうだ。今のコンビニが入っている建物の辺りは広い駐車場だったのだが、自家用車の需要が減る一方、狭い土地の活用にコインパーキングが流行した。そこで一念発起してもう一棟、アパートを立てることにした。勿論、始めから角部屋を潰すつもりはなく、裏手の駐車場に続く十分な道幅を開けて二棟目を建てるつもりが日照権やら何やらで隣と揉め、仕方なく一棟目と廊下を共用するような形で二棟目を建て増したという。
「階段部分が不要になった分一部屋増やせるからと説得されて、大家さんも渋々飲んだという話で……」
と、まだ若い彼女も伝聞でしか知らないようだ。
「でも、デスクを隣に置いてサブ・モニターを置いたり、便利に使えると思いますよ」
などとフォローする彼女の言葉を聞き流しつつ窓から顔を出そうとし、間の狭さに鼻から先だけを出して下を覗く。隣の美容室で使ったものだろうか、隙間にすっぽりと嵌ったマネキンの生首と目が合った。

そんな夢を見た。