第五十夜

屋根を叩く雨音が消え、雨の切れ間を盗んで近所のコンビニエンス・ストアへ買い物に出ようと思い立ち、部屋の鍵と財布とだけを手に部屋を出て、アパートの階段を降りる。また降り出さぬうちに用を足して帰りたい。濡れたアスファルトを急ぎ足で歩き、マンションの角を店の方へ右折すると、右手の植え込みの紫陽花の根本近くから、何か小さな塊がLEDの刺さるような光をぬめりと照り返すのが目に入っる。

立ち止まること無くちらと目を向けると、どうやら数匹の蟻が一匹のナメクジをひっくり返し、顎で噛んで引きずっているらしい。
――可哀想に。

そうは思うが、蟻には蟻の事情があるだろう。喰う者の喰う姿だけを見てその残酷さに嫌悪を感じ、一時限りの救いの手を差し伸べることは到底正義ではあるまい。

早足にその場を六、七歩後にしながら、そんなことを考える。
――下手に助けてナメクジ女房にでもなられたら、却って気色も悪かろう。

そんなことを考える頭の右に付いた耳に、
「ギッ」
と何かの鳴くような声が聞こえた。

そんな夢を見た。