第四百七十九夜

 

帰宅して宿題をしていると玄関の開く音がして、弟が習い事から帰ってきた。

彼は部屋に入ってきてバタバタと荷物を置きうがいと手洗いを済ませると暫くあちこちを見て回り、再び部屋に戻ってきて、
「あれ?お母さん居ないの?」
と問う。
「え?一緒に帰ってきたんじゃないの?」
と聞き返す声が思いの外大きく、自分でそれに驚く。
母はいつも通り、習い事の終わる十五分ほど前に弟を迎えに自転車で出掛けていたはずで、
「あんた一人で帰って来たの?」
と重ねて問うと、
「だって、十分待っても来ないんだもん」
と口を尖らせる。時計を見れば確かに、いつも帰ってくる時刻を既に三十分は過ぎている。

嫌な予感を感じつつ、とりあえず風呂に入るよう彼に促して机に向かうとちょうど携帯電話が鳴る。発信元に母と表示されているのを見、慌てて通話ボタンを押す。
取り乱した様子の母の言葉を整理すると、弟を迎えに行った帰りに車に追突されて警察を呼び病院に運ばれた。幸い大した怪我ではないが、後ろに乗せていた弟が居なくなった。警察も事故車の運転手もそんな子供は見当たらないと口を揃えるのだそうだ。

背筋に冷たいものを感じながら風呂場へ急ぐと、弟は確かにそこで髪を洗っている最中で、風呂の戸を開けて事情を問うと、確かに母は迎えに来ていない、習い事の先生も「おかしいけれどあんまり遅いから一人で帰れるのなら帰った方がいい」と言ったという。

弟は確かに帰宅して、五体満足で風呂に入っていると電話の向こうの母に伝えると、そんなはずはない、確かに自転車の後ろの席に乗せたのだと頑張る。

やがて電話口は警官を名乗る女性に代わり、搬送先の病院やらの説明を受けながら、母は一体何を乗せたのか、或いは今風呂に入っている弟は本当に弟なのか、そんな考えが頭に浮かんでは鳥肌が立つのだった。

そんな夢を見た。